自作ゾンビ小説の草稿投稿中。
いらっしゃいませ。
自作のゾンビ物語の草稿を投稿中です。
予定では4日間の出来事として書いて
いますが3年も経つと言うのにようやく
3日目。それでもめげずにやって来れた
のは読んでくれる方がいらっしゃるから
こそと感謝しています。今後も感想なり
コメント頂けますと非常にやる気と
励みになります。宜しければ一言でも
添えて頂けますと嬉しいです。
自作ゾンビ物語。
[portrait of the dead]
めざせ!! ゾンビ小説家!!
ゾンビが好きすぎて自作のお話なんか
拵えております。なにぶん素人の
書く物語なので大目にみて下さい。
「ゾンビと暮らす。」(仮)→目次
めざせ!! ゾンビ小説家!!
ゾンビが好きすぎて自作のお話なんか
拵えております。なにぶん素人の
書く物語なので大目にみて下さい。
「ゾンビと暮らす。」(仮)→目次
プロフィール
HN:
南瓜金助 (みなみうりごんすけ)
HP:
性別:
男性
自己紹介:
別HNカボチャスキのお送りします
来た人だけが知っている秘密の部屋。
言うに洩れずホラー映画が好きです。
憧れの人はフック船長と芹沢博士に
スネーク・プリスキンとDr.ルーミス。
彼らに多大なる恩恵を授かりました。
来た人だけが知っている秘密の部屋。
言うに洩れずホラー映画が好きです。
憧れの人はフック船長と芹沢博士に
スネーク・プリスキンとDr.ルーミス。
彼らに多大なる恩恵を授かりました。
ブログ内検索
最新コメント
[08/15 カボチャスキ]
[08/14 ももちん]
[12/29 カボチャスキ]
[12/28 ももちん]
[11/26 カボチャスキ]
[10/06 ももちん]
[09/03 カボチャスキ]
[09/02 ももちん]
[08/05 カボチャスキ]
[08/04 ももちん]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
→目次ページはコチラから
[portrait of the dead
ブーーーーッ
ブーーーーッ
ブーーーーッ
枕の下に沈めた携帯電話のバイブで眠りから起こされる。
寝る前にアラームを設定していた。
今日は暗くなる前に帰らなければならないだろうと思い
朝早くに準備して出掛けられるようにと早朝鳴るようにセットしていた。
昨日、厳密には明けて今日、ベッドに入ったのは深夜1時を回っていて
彼女の笑顔を見た後、気が抜けたのか急に疲れが襲って来て
今日の予定を立てる余裕も無くベッドに直行していたからだ。
まずは彼女を自宅へ連れて行く準備をしなければならない。
手に持った携帯のバイブを止めると画像フォルダを開き
保存してある画像をチェックする。
さっき撮った彼女の笑顔を。
…あるわけないか。夢だよ。
昨日見た彼女の笑顔は僕の頭の中にだけ存在している。
その時すかさずシャッターを押してみたのだけれど
フラッシュをたく為の装置が跳ね上がって来て
フラッシュをたかれなければシャッターは下り無いと気が付き
結局写真に収めるのをやめた。フラッシュ無しで撮影出来るのか
設定の仕方が分らない。…カメラの説明書を探して憶えた方がいいかも。
昨日彼女が僕を写した時のフラッシュは眩しかった。
カーテンしか掛かっていない窓にフラッシュの光は危険を招く
恐れがあると思い、かと言って昨日光漏れ防止の作業を考える程
頭が回らなかった。後でまた彼女にカメラを向けてみよう。
起きようとするとまだ体が痛い。
また普段使わないような筋肉を使った様で筋肉痛だろう。
昨日と同じくキッチンに向かい、まず鎮痛剤を飲んだ。
水は今日も出る。外の様子を知ろうとキッチンの窓を少し開け
覗き来んだ。めざましを設定したのは朝6時だ。
霧か曇り空のせいで空が低く街灯が雲に反射してか街をうっすら白く
輝かせていた。朝日の出る方向からの光はまだ街並みを縁取るくらい。
街灯に照らされた道路に一体だけ人影を確認する。
早朝出勤らしいサラリーマンはスーツケースをぶら下げ
ふらりふらりと歩いていた。昨日も見た気がする。
もちろん言うまでもなくやつらの1人だ。
その姿を見た僕の目は確実に覚め、気付かれるのを恐れ窓を閉めると
体がまだ起きていない様で、リビングのソファーにどっしりと倒れ込む。
死が“姿を現して”から3日目の朝…。
僕はおとといまで、“死”は知っていても1度もそれに
直接関わった事がなかった。こうなる前は両親は健在。
母さんのお父さん、僕からしたらお爺ちゃんは
僕が産まれる前に亡くなっていて、その死を間近に感じてはおらず、
それ以外のお爺さんお婆さんはまだピンピンしていた。
いままで知り合った友達やその関係者にも亡くなった方や
死にひんした病にかかっている人もいなかったようで、
経験からは僕自身は死という事を全く知らなかったし
僕自身の身にも突然に死が降り掛かるとは微塵も思っていなかった。
まるで死を主張するかのようなやつらの存在は、僕のような安易に
生きている者にその存在を知らしめる為に現われたのかもしれない。
文字通り、死が降り掛かる…死に襲われるのだ。
いつからだろうか…
僕が死を遠くに感じるようになったのは。
死を軽んじ恐れを抱かなくなったのは。
発達した医療の延命率が高くなって来たせい?
殺害描写のある映画やゲームと言った娯楽のせい?
頻繁に起こっている筈の殺人事件や死亡事故のニュースが
画面で見る故に距離に隔たりを感じるせい?
いや、環境は関係ない。気が回らなかったのは
僕自身が“死”に引っかからなかった事にある。
そうか、別に驚く程の事ではなかったのかもしれない。
本当は“死”は常に生と隣り合わせだった。いつも傍らにいたんだ。
死はたぶんずっと前から、生きている人々にとって最も身近で
恐れられる、あるいは崇高なまでに尊い存在だった。
…そう言う事だ。今、やつらを目の当たりにする事により、
今より後、僕は“死”を確実に忘れはしないだろう。
僕以外の人々も。
なんとかソファーから起きあがると、とりあえず顔を洗おうと思い、
洗濯機の置いてある風呂場の前の脱衣所に設置された洗面台へと移動し、
なるべく音を立てないように顔を洗った。これも習慣として憶えていれば
やつらは顔を洗う仕草をする事があるのだろうか…。顔がさっぱりと
したせいか、自分の体から汗の臭いがしているのに気付く。
そうだ…風呂に入ったのは事件初日の学校帰りにシャワーを浴びた時
以来だった。今日彼女の両親に会いに行くのに、匂ったら
印象悪そうだぞ。風呂に入る決意をし浴室へ。シャワーノズルを手に取り
蛇口の取っ手をひねると普段は自動的にお湯が出るはずが水しか出なく
なっていた。どうやらガスは止められてしまったか、あるいは届かなく
なってしまったのかもしれない。途中で洩れている?
ガスを止められる事が出来る人間がいる可能性はあるのか?
もし、水道も電気も今だ“供給されている”と言う事なのなら、
それぞれの関係者がライフラインを確保してくれていたと考えても
良いのだろうか…だとしたら災害時マニュアルは今なお実践
されているのかもしれない。そう願いたい。
冷たい!!
…そう叫びそうになったが堪えた。
なんとか体を洗い終えるまでにはライフラインの事など忘れてしまい、
石鹸の香りに気分を改めると風呂場を出た。
しまった…バスタオル、持って来ていなかった。
いつも風呂上がりで使ったあと自分の部屋に置きっぱなしにするので
そのままだ。濡れた体にしたたる水滴を両手で適当に払いのけ、
バスマットで足を拭き、変わりになるようなものはないかと見回すも、
目に入ったのは洗濯するはずの汚れ物だけ。せっかく風呂に入ったのに
と思い、仕方なく裸のまま2階の自分の部屋に向かった。
そうだ、部屋の中には彼女がいる…中の様子を伺う。
彼女は床で横たわっている状態で特に変化はなかった。僕は忍び足で
部屋に入るが、僕に気が付いた彼女は視線を僕に浴びせていた。
彼女の視線は僕の股間で揺れているものを目で追っているように
感じたので、僕は危険を察してかその部分を両手で覆い隠した。
彼女の前で素っ裸と考えるとなぜが緊張し股間に手を添えたままの
行動もギクシャクとする。
部屋に入るとすぐ左の壁にフックが取り付けられていて
掛かっているバスタオルをとり濡れていた体を拭くと
ドアから左側にあるタンスの中から、母さんがしまっておいてくれた
下着やら洗濯を終えた服を選んだ。水浴びのせいで体が冷え、
寒く感じていたので長袖の灰色のパーカーを出し、
チェック柄のトランクスと濃い緑色のスウェットのパンツをはくと
パーカーを着て、髪が濡れているのでバスタオルを羽織る。
学習机に向かい引き出しから緊急連絡時用の生徒の
住所録が記載されている小冊子を取り出す。
机の上から彼女の書いたハートマークが所狭しと
目に飛び込んで来て、昨日の笑顔と合わさると僕にまた
力を与えてくれた。
机の脇の置かれた携帯の充電器が目に入ったのでコンセントから抜くと
小冊子と充電器を持ち自分の部屋から出て1階の父さんの書斎に向かい
中にこもってドアを閉め切り、室内の電気を点けるとパソコンを開く。
画面が立ち上がる間、充電器をコンセントにさし携帯電話をセットした。
急いで濡れた髪を脱衣所で乾かす。バスタオルは洗濯機の上に置き、
書斎に戻ると椅子に座って机の上のパソコン画面に検索サイトを出し
キーボードから彼女の住所を撃ち込むと検索サイトは地図を示した。
電車で行けるなら僕の家から一番近い最寄り駅から2駅先の地域。
彼女の家は2駅先の駅からさらに徒歩10分圏内の高級住宅地と
言われている場所にある様だ。お金持ちなのか?ご両親は…。
パソコン画面に現われた地図を携帯電話のカメラで写し取り保存する。
まずは彼女の家の最寄り駅を目指す事にし、移動手段を考える。
父さんが生きていれば車で送ってくれるはずだった。
僕は自動車免許は持っておらず、車の運転はした事がない。
動かせたとしても万が一事故を起こしやつらに囲まれたりすれば
アウトだろう。持っている免許と言えば取ったばかりの原動機付自転車の
免許のみ。しかし原チャリは知り合いから借りて乗る程度で購入しては
おらず。自転車は有るには有るが、中一の時に買ってもらった
スポーツタイプの自転車は高校に入ってからバス通学となって
今は家の脇で錆び放題。しっかり走りそうな自転車は母さんが
使っていたいわゆるママチャリだ。最終手段は徒歩。
どうするか…?そう言えば電車が運行し始めたと昨日言っていたけれど
今も動いているのだろうか。それに乗る事が出来れば3駅は
容易いはずなんだけれど。もちろん…化物を乗せてくれればの話だが。
そして彼女の運び方だ。背負うか?抱えるか?
なにか袋かバッグに入れるか?そうだ、父さんが家に帰って来た時
被っていたフルフェイスのヘルメットが玄関脇に転がっていたはず。
それを彼女に被せれば背負って移動しても噛まれる心配は無さそうだ。
猿ぐつわをはめた姿を両親に見せなくてすむし。
紐で縛って背負った方が移動もしやすいだろう…紐、あったかな?
探してみよう。
考えた末、万が一襲われたときの事を踏まえ、
体の自由が利きそうな方が良いだろうと、ヘルメットを被せた彼女を
背負い、ママチャリで線路伝いに移動するのが最善に思えた。
幸いにも僕の家の裏に伸びるサイクリング道路は駅周辺まで続いて
いるし、その後も線路沿いに道路が並走している区間で、そこを
移動した方が手っ取り早く分りやすいと言った事もあった。
次は彼女の支度だ。
包めたまま担いで移動するのは当然無理だろう。
猿ぐつわをはめ…そうだ、試しにヘルメットを被せてみよう。
それに全裸の彼女には何か着せて連れて行かなければならない。
母さんの服から借りよう。身長は多分一緒ぐらいだけれど、
華奢な彼女に比べ母さんの方が体格が良い印象。
丁度いいのが見つかればいいけれど。
テレビ脇に懐中電灯を見つけ必要なものの捜索を開始した。
紐は屋根裏の物置に黄色と黒が交互に入った標識ロープを見つけた。
少し硬めだがしかたない。以前母さんが玄関先に花壇を作った時に
父さんが何度も花壇を忘れせっかく出た芽を踏んでしまうので
とうとう母さんが怒ってしまい「父さん侵入禁止用ロープ」を張って
花壇を守った事があった。…父さんが時折油断する姿を見せていた事に
しばし偲ぶ。そんな事をしても2人とも仲がよかった。
服は両親の寝室にある洋服ダンスから母さんの服を探し出す。
彼女の印象を良くした方が良いと思っていると、清潔そうな感じの
襟がヒラヒラした白いブラウスと一緒に紺色のスカートがハンガーに
掛かっているのが目に入った。これを試そうと用意する。
懐中電灯とヘルメットとロープと服を持って自分の部屋に向かった。
曇り空のせいか朝日は顔を見せてはいないけれど辺りが明るくなっていて
カーテン越しに入った光で部屋の中がはっきりと見え始めていた。
のり巻きこけしで横たわったの彼女はの姿はやはり昨日とそう変わらず。
慎重に、まずヘルメットを被せてみる。少しブカブカだったが
首下にある留め具を締めると外れないようになったので
これは使えそうだ。しかし万が一を考えやはり彼女の両親に会うまでは、
猿ぐつわを噛ませてからヘルメットを被せよう。
次にのり巻きを縛り止めていたシーツを解き、
布団から彼女を取り出さないといけない。
巻いてあった布団を開くと部屋中に異様な臭いが充満した。
ウッ…
思わずもらした声。鼻がピクリと痙攣する。
なにかが腐ったような、そんな感じの臭いだ。
臭いの正体を探ろうと懐中電灯で彼女を照らし
彼女の体に異変がないか調べ始めた。
どういうことだ?
まさか…腐り始めたのか?! 彼女が!!
(続く)
→第26章へ。
[portrait of the dead
ブーーーーッ
ブーーーーッ
ブーーーーッ
枕の下に沈めた携帯電話のバイブで眠りから起こされる。
寝る前にアラームを設定していた。
今日は暗くなる前に帰らなければならないだろうと思い
朝早くに準備して出掛けられるようにと早朝鳴るようにセットしていた。
昨日、厳密には明けて今日、ベッドに入ったのは深夜1時を回っていて
彼女の笑顔を見た後、気が抜けたのか急に疲れが襲って来て
今日の予定を立てる余裕も無くベッドに直行していたからだ。
まずは彼女を自宅へ連れて行く準備をしなければならない。
手に持った携帯のバイブを止めると画像フォルダを開き
保存してある画像をチェックする。
さっき撮った彼女の笑顔を。
…あるわけないか。夢だよ。
昨日見た彼女の笑顔は僕の頭の中にだけ存在している。
その時すかさずシャッターを押してみたのだけれど
フラッシュをたく為の装置が跳ね上がって来て
フラッシュをたかれなければシャッターは下り無いと気が付き
結局写真に収めるのをやめた。フラッシュ無しで撮影出来るのか
設定の仕方が分らない。…カメラの説明書を探して憶えた方がいいかも。
昨日彼女が僕を写した時のフラッシュは眩しかった。
カーテンしか掛かっていない窓にフラッシュの光は危険を招く
恐れがあると思い、かと言って昨日光漏れ防止の作業を考える程
頭が回らなかった。後でまた彼女にカメラを向けてみよう。
起きようとするとまだ体が痛い。
また普段使わないような筋肉を使った様で筋肉痛だろう。
昨日と同じくキッチンに向かい、まず鎮痛剤を飲んだ。
水は今日も出る。外の様子を知ろうとキッチンの窓を少し開け
覗き来んだ。めざましを設定したのは朝6時だ。
霧か曇り空のせいで空が低く街灯が雲に反射してか街をうっすら白く
輝かせていた。朝日の出る方向からの光はまだ街並みを縁取るくらい。
街灯に照らされた道路に一体だけ人影を確認する。
早朝出勤らしいサラリーマンはスーツケースをぶら下げ
ふらりふらりと歩いていた。昨日も見た気がする。
もちろん言うまでもなくやつらの1人だ。
その姿を見た僕の目は確実に覚め、気付かれるのを恐れ窓を閉めると
体がまだ起きていない様で、リビングのソファーにどっしりと倒れ込む。
死が“姿を現して”から3日目の朝…。
僕はおとといまで、“死”は知っていても1度もそれに
直接関わった事がなかった。こうなる前は両親は健在。
母さんのお父さん、僕からしたらお爺ちゃんは
僕が産まれる前に亡くなっていて、その死を間近に感じてはおらず、
それ以外のお爺さんお婆さんはまだピンピンしていた。
いままで知り合った友達やその関係者にも亡くなった方や
死にひんした病にかかっている人もいなかったようで、
経験からは僕自身は死という事を全く知らなかったし
僕自身の身にも突然に死が降り掛かるとは微塵も思っていなかった。
まるで死を主張するかのようなやつらの存在は、僕のような安易に
生きている者にその存在を知らしめる為に現われたのかもしれない。
文字通り、死が降り掛かる…死に襲われるのだ。
いつからだろうか…
僕が死を遠くに感じるようになったのは。
死を軽んじ恐れを抱かなくなったのは。
発達した医療の延命率が高くなって来たせい?
殺害描写のある映画やゲームと言った娯楽のせい?
頻繁に起こっている筈の殺人事件や死亡事故のニュースが
画面で見る故に距離に隔たりを感じるせい?
いや、環境は関係ない。気が回らなかったのは
僕自身が“死”に引っかからなかった事にある。
そうか、別に驚く程の事ではなかったのかもしれない。
本当は“死”は常に生と隣り合わせだった。いつも傍らにいたんだ。
死はたぶんずっと前から、生きている人々にとって最も身近で
恐れられる、あるいは崇高なまでに尊い存在だった。
…そう言う事だ。今、やつらを目の当たりにする事により、
今より後、僕は“死”を確実に忘れはしないだろう。
僕以外の人々も。
なんとかソファーから起きあがると、とりあえず顔を洗おうと思い、
洗濯機の置いてある風呂場の前の脱衣所に設置された洗面台へと移動し、
なるべく音を立てないように顔を洗った。これも習慣として憶えていれば
やつらは顔を洗う仕草をする事があるのだろうか…。顔がさっぱりと
したせいか、自分の体から汗の臭いがしているのに気付く。
そうだ…風呂に入ったのは事件初日の学校帰りにシャワーを浴びた時
以来だった。今日彼女の両親に会いに行くのに、匂ったら
印象悪そうだぞ。風呂に入る決意をし浴室へ。シャワーノズルを手に取り
蛇口の取っ手をひねると普段は自動的にお湯が出るはずが水しか出なく
なっていた。どうやらガスは止められてしまったか、あるいは届かなく
なってしまったのかもしれない。途中で洩れている?
ガスを止められる事が出来る人間がいる可能性はあるのか?
もし、水道も電気も今だ“供給されている”と言う事なのなら、
それぞれの関係者がライフラインを確保してくれていたと考えても
良いのだろうか…だとしたら災害時マニュアルは今なお実践
されているのかもしれない。そう願いたい。
冷たい!!
…そう叫びそうになったが堪えた。
なんとか体を洗い終えるまでにはライフラインの事など忘れてしまい、
石鹸の香りに気分を改めると風呂場を出た。
しまった…バスタオル、持って来ていなかった。
いつも風呂上がりで使ったあと自分の部屋に置きっぱなしにするので
そのままだ。濡れた体にしたたる水滴を両手で適当に払いのけ、
バスマットで足を拭き、変わりになるようなものはないかと見回すも、
目に入ったのは洗濯するはずの汚れ物だけ。せっかく風呂に入ったのに
と思い、仕方なく裸のまま2階の自分の部屋に向かった。
そうだ、部屋の中には彼女がいる…中の様子を伺う。
彼女は床で横たわっている状態で特に変化はなかった。僕は忍び足で
部屋に入るが、僕に気が付いた彼女は視線を僕に浴びせていた。
彼女の視線は僕の股間で揺れているものを目で追っているように
感じたので、僕は危険を察してかその部分を両手で覆い隠した。
彼女の前で素っ裸と考えるとなぜが緊張し股間に手を添えたままの
行動もギクシャクとする。
部屋に入るとすぐ左の壁にフックが取り付けられていて
掛かっているバスタオルをとり濡れていた体を拭くと
ドアから左側にあるタンスの中から、母さんがしまっておいてくれた
下着やら洗濯を終えた服を選んだ。水浴びのせいで体が冷え、
寒く感じていたので長袖の灰色のパーカーを出し、
チェック柄のトランクスと濃い緑色のスウェットのパンツをはくと
パーカーを着て、髪が濡れているのでバスタオルを羽織る。
学習机に向かい引き出しから緊急連絡時用の生徒の
住所録が記載されている小冊子を取り出す。
机の上から彼女の書いたハートマークが所狭しと
目に飛び込んで来て、昨日の笑顔と合わさると僕にまた
力を与えてくれた。
机の脇の置かれた携帯の充電器が目に入ったのでコンセントから抜くと
小冊子と充電器を持ち自分の部屋から出て1階の父さんの書斎に向かい
中にこもってドアを閉め切り、室内の電気を点けるとパソコンを開く。
画面が立ち上がる間、充電器をコンセントにさし携帯電話をセットした。
急いで濡れた髪を脱衣所で乾かす。バスタオルは洗濯機の上に置き、
書斎に戻ると椅子に座って机の上のパソコン画面に検索サイトを出し
キーボードから彼女の住所を撃ち込むと検索サイトは地図を示した。
電車で行けるなら僕の家から一番近い最寄り駅から2駅先の地域。
彼女の家は2駅先の駅からさらに徒歩10分圏内の高級住宅地と
言われている場所にある様だ。お金持ちなのか?ご両親は…。
パソコン画面に現われた地図を携帯電話のカメラで写し取り保存する。
まずは彼女の家の最寄り駅を目指す事にし、移動手段を考える。
父さんが生きていれば車で送ってくれるはずだった。
僕は自動車免許は持っておらず、車の運転はした事がない。
動かせたとしても万が一事故を起こしやつらに囲まれたりすれば
アウトだろう。持っている免許と言えば取ったばかりの原動機付自転車の
免許のみ。しかし原チャリは知り合いから借りて乗る程度で購入しては
おらず。自転車は有るには有るが、中一の時に買ってもらった
スポーツタイプの自転車は高校に入ってからバス通学となって
今は家の脇で錆び放題。しっかり走りそうな自転車は母さんが
使っていたいわゆるママチャリだ。最終手段は徒歩。
どうするか…?そう言えば電車が運行し始めたと昨日言っていたけれど
今も動いているのだろうか。それに乗る事が出来れば3駅は
容易いはずなんだけれど。もちろん…化物を乗せてくれればの話だが。
そして彼女の運び方だ。背負うか?抱えるか?
なにか袋かバッグに入れるか?そうだ、父さんが家に帰って来た時
被っていたフルフェイスのヘルメットが玄関脇に転がっていたはず。
それを彼女に被せれば背負って移動しても噛まれる心配は無さそうだ。
猿ぐつわをはめた姿を両親に見せなくてすむし。
紐で縛って背負った方が移動もしやすいだろう…紐、あったかな?
探してみよう。
考えた末、万が一襲われたときの事を踏まえ、
体の自由が利きそうな方が良いだろうと、ヘルメットを被せた彼女を
背負い、ママチャリで線路伝いに移動するのが最善に思えた。
幸いにも僕の家の裏に伸びるサイクリング道路は駅周辺まで続いて
いるし、その後も線路沿いに道路が並走している区間で、そこを
移動した方が手っ取り早く分りやすいと言った事もあった。
次は彼女の支度だ。
包めたまま担いで移動するのは当然無理だろう。
猿ぐつわをはめ…そうだ、試しにヘルメットを被せてみよう。
それに全裸の彼女には何か着せて連れて行かなければならない。
母さんの服から借りよう。身長は多分一緒ぐらいだけれど、
華奢な彼女に比べ母さんの方が体格が良い印象。
丁度いいのが見つかればいいけれど。
テレビ脇に懐中電灯を見つけ必要なものの捜索を開始した。
紐は屋根裏の物置に黄色と黒が交互に入った標識ロープを見つけた。
少し硬めだがしかたない。以前母さんが玄関先に花壇を作った時に
父さんが何度も花壇を忘れせっかく出た芽を踏んでしまうので
とうとう母さんが怒ってしまい「父さん侵入禁止用ロープ」を張って
花壇を守った事があった。…父さんが時折油断する姿を見せていた事に
しばし偲ぶ。そんな事をしても2人とも仲がよかった。
服は両親の寝室にある洋服ダンスから母さんの服を探し出す。
彼女の印象を良くした方が良いと思っていると、清潔そうな感じの
襟がヒラヒラした白いブラウスと一緒に紺色のスカートがハンガーに
掛かっているのが目に入った。これを試そうと用意する。
懐中電灯とヘルメットとロープと服を持って自分の部屋に向かった。
曇り空のせいか朝日は顔を見せてはいないけれど辺りが明るくなっていて
カーテン越しに入った光で部屋の中がはっきりと見え始めていた。
のり巻きこけしで横たわったの彼女はの姿はやはり昨日とそう変わらず。
慎重に、まずヘルメットを被せてみる。少しブカブカだったが
首下にある留め具を締めると外れないようになったので
これは使えそうだ。しかし万が一を考えやはり彼女の両親に会うまでは、
猿ぐつわを噛ませてからヘルメットを被せよう。
次にのり巻きを縛り止めていたシーツを解き、
布団から彼女を取り出さないといけない。
巻いてあった布団を開くと部屋中に異様な臭いが充満した。
ウッ…
思わずもらした声。鼻がピクリと痙攣する。
なにかが腐ったような、そんな感じの臭いだ。
臭いの正体を探ろうと懐中電灯で彼女を照らし
彼女の体に異変がないか調べ始めた。
どういうことだ?
まさか…腐り始めたのか?! 彼女が!!
(続く)
→第26章へ。
PR