自作ゾンビ小説の草稿投稿中。
いらっしゃいませ。
自作のゾンビ物語の草稿を投稿中です。
予定では4日間の出来事として書いて
いますが3年も経つと言うのにようやく
3日目。それでもめげずにやって来れた
のは読んでくれる方がいらっしゃるから
こそと感謝しています。今後も感想なり
コメント頂けますと非常にやる気と
励みになります。宜しければ一言でも
添えて頂けますと嬉しいです。
自作ゾンビ物語。
[portrait of the dead]
めざせ!! ゾンビ小説家!!
ゾンビが好きすぎて自作のお話なんか
拵えております。なにぶん素人の
書く物語なので大目にみて下さい。
「ゾンビと暮らす。」(仮)→目次
めざせ!! ゾンビ小説家!!
ゾンビが好きすぎて自作のお話なんか
拵えております。なにぶん素人の
書く物語なので大目にみて下さい。
「ゾンビと暮らす。」(仮)→目次
プロフィール
HN:
南瓜金助 (みなみうりごんすけ)
HP:
性別:
男性
自己紹介:
別HNカボチャスキのお送りします
来た人だけが知っている秘密の部屋。
言うに洩れずホラー映画が好きです。
憧れの人はフック船長と芹沢博士に
スネーク・プリスキンとDr.ルーミス。
彼らに多大なる恩恵を授かりました。
来た人だけが知っている秘密の部屋。
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[portrait of the dead]
「おい宏幸!!、母さんは!!…母さんは無事なのか?!」
僕の両肩を掴んで前後に揺さぶりながら
父さんは繰り返しその事を僕に尋ねた。
「母さん…母さんは…」
僕は昨日見た下半身の無い血まみれの母さんの事を思い出し
言葉が見つからない。なんて説明したらいい?
それと同時に僕の背後にいるこけし状の彼女を立たせたままの状態も
気になって頭が混乱し、父さんの質問に対して口ごもったまま
何の返答も出来ない。
ふと、僕を揺らし続けていた父さんの腕が放される。
「宏幸、あれは…あれは何だ?まさか、母さんか?!」
彼女を気付かれた。父さんは被っていた黒いフルフェイスの
ヘルメットを頭から脱ぐと床へ落とし、靴を脱いで家に上がると
廊下をゆっくりと歩き始め、彼女へと近づいて行った。
僕は慌てて父さんを引き止めようとする。
「父さん!! 待って、それ…そのコは…」
父さんは彼女の1m程前に辿り着くと彼女に向かって言い放った。
「おい!! ば…化物じゃないか!!…宏幸、お前…何考えてるんだ!?」
その言葉を聞いた僕の頭に急に血が登る。
「ば!!…化物なんて言うなよ!!…こ、恋人なんだよ!!
彼女を外に置き去りには出来なくて、家に連れて来たんだ。」
怒鳴った僕に父さんは驚いた様だった。
そう仲がいいわけでは無かったが、過去に父さんに向かって
怒鳴た事など一度も無かったからかも知れない。
化物呼ばわり…僕の周りの空気が変わった。
明らかに僕と彼女の2人だけの世界は夢の中だ。
目の前には恐れていた新たな敵が現われた様にも思えた。
交際を認められなかったカップルはこんな心境だろうか?
僕は彼女を引き止める為なら、父さんだろうが戦う覚悟だ。
父さんは彼女に背を向け僕の方へ向きなおした。
どう出る?父さん、僕と騒動を起こす?
「そ…そうか、すまなかった。
お前の大切な人だとは気が付かなくて。
でもこんな状態の訳の分からない狂暴な存在と一緒に過ごすのは
危険すぎる…好きなのも解るが、これはそれだけではすまない話だ。
よく考えて行動しよう。」
いきり立った僕に対して、
思いがけず冷静な態度で対応して来た父さんに意表をつかれ、
今度は頭に登った血が一気に引いた様だった。
彼女が追い出されるかも知れないと言う不安感が襲い
僕にこう言わせた。
「か…母さんも、たぶん彼女と同じだ。」
「…?、母さんを見たのか? 今、どこにいる?」
「どこにいるかは知らないよ。でも昨日の夕方、
玄関のドアを叩き続けていたみたいだ…」
「無事なんじゃないのか?なんで母さんを家にあげなかった?」
「ドアを開けられなかったんだよ。父さんは会社にいて
知らないかもしれない…夕方、近所の家に次々にやつらが帰宅して
それぞれの家の玄関をノックし始めたんだ。
近所にやつらがウヨウヨしていて…僕が気が付かれ
押し寄せられたらひとたまりもないだろ?
そんな状況で、あの騒音の中で、玄関を叩いているのが
母さんだなんて考えられなかったんだ。
しかも玄関を叩いている場所がドアの下の方だったし…
だから母さんだって思いもしなかったんだよ…」
「…なぜ、母さんだと判った?
お前は玄関を開けて確認はしていないんだろ?」
「音が止んだとき…玄関の覗き穴から見たんだ。…母さんだよ。
僕に編んでくれた中学時代のお古のセーターを着ていた。」
「………」
父さんは青ざめた顔で絶句していた。一息置いた所で口を開く。
「セーター…見間違いじゃないんだな?」
「…うん」
「母さんは死んでいたんだな?… 本当にやつらと同じだったんだな?」
生死を疑う父さんに僕はその事を知らせるしか無かった。
「…いい?気をしっかり持って聞いてね、母さんドアの下の方を
叩いてたって言ったよね?」
「あぁ…そう聞いた…。」
「母さん立てなかったんだよ…だから下しか叩けなかった。
…母さんさ、下半身を食べられてしまっていたんだ
…だから立てるわけが無くて…」
下半身が無い…その言葉が堪えた様で
父さんは廊下の壁にもたれかかりしゃがみ込む。
「そうか…それじゃあ、無事でいるわけないか…」
そうぼそりと呟くと薄暗い家の中の空気がさらに
冷えて行ったように感じた。彼女は目の前で動く
父さんが気になる様で、こけし状に縛り付けられた体ながらもぞもぞと
動き続けるとバランスを崩し背中から床へ倒れ込んだ。
「あぁ!!」 それに気付き僕は受け止めようと慌てて腰を上げるが
全く間に合わない。床めがけ、彼女の頭がぶつかる
…寸前に彼女の頭が止まった。父さんがかろうじて彼女を支えていた。
「あ…ありがとう」 僕は父さんの意外な行動に安堵感を得ていた。
ゆっくりと彼女を床に寝かせながら父さんは話し始めた。
「そうか、母さんも…助からなかったのか…
悲しいが…いつまでも落ち込んでいたら
母さんにどやされそうだ…心配に気をもむのも辛い…
こうなればこれからの事を考えるしか無い…判って良かった…」
父さんはその言葉をたぶん自分に言い聞かせていたのだろう。
そして廊下の床に寝かせた彼女の顔を見つめながらこうも言った。
「なぁ宏幸…恋人のご両親はこの事を知っているのか?
心配しているんじゃないか?無事を…」
「………!!」
今度は僕が絶句した。考えもしなかった!!
当たり前だ!! 彼女の両親が生きているならば、
彼女を心配しているに違いない!!
なんで気が付かなかったんだろう…
自分の事ばかり考えていたからだ。
彼女にだって彼女の環境がある。
この事を彼女の両親に伝えた方がいいのだろうか?
彼女の死をどう告げればいいのだろうか?
僕は立ちすくんだままその場でしばし考え込み…
家はしばらく静まり返った。
ドンッ…
何かが壁にぶつかった時の様な音が
静寂に包まれた薄暗い家の中に響いた。
我に帰る。僕と父さんに緊張が走った。
父さんは僕に向かって人差し指を立てると自分の唇に当て
静かにという仕草をした。やつらに気付かれたのだろうか?
僕と父さんの会話が外に漏れていた?…可能性はある。
迂闊にもお互い声を張り上げた所がある…。
ドンッ…
また音がした。
音は僕の背にある玄関のドアからだ。
ドンッ…
音はドアの下の方からではない…母さんじゃ無さそうだ。
“騒がしい夜”にはまだ日が高い…。
しかしやつらの一体がまぎれも無く玄関の外側にいる事は
間違い無さそうだった。物音一つ立てられない。
なんの為に僕の家に?父さんと目を見合わせる僕に
ドアの覗き穴から覗けと父さんからジェスチャーが届いた。
僕もそう思っていた。やるしか無い…息をのみ僕はゆっくりと
玄関のドアに近づいて穴から外を覗き込んだ。
「………!!」
僕は穴から見えたものに驚く。
穴の先には目玉が見えた!! 向こうからも覗き込んでいる!!
大丈夫、落ち着け。向こうからは見えないはずだ。
暫く、そいつの目を見つめていると、後ろへ下がったのか
血まみれの顔がはっきりと見えて来た。
両頬の辺りを食われて骨がむき出しだったが見覚えは無かった。
徐々にそいつはドアから離れ玄関に背を向け、家の敷地内から
外へと歩き出す。スーツ姿のその男は左手にブリーフケースを
持っていてふらついた足取りで家の前の道路を右に向かう。
道路上には他に中年女性に見えるやつを1体確認する。
その女性は向かいの家の塀に付けられた郵便受けの前に立ち止まると
右手を郵便受けに差し込む。踵を返し今度は僕の家に近づき
玄関の石畳の入口に立てられた郵便受けに向かって
同じ動作を繰り返して去って行った。
隣りの五十嵐さん宅の玄関を叩く音が耳に微かに届く。
さっき、右手に向かったスーツの男が
同じ動作を繰り返しているのかも知れない。
働いている…やつらが。
ポスティングに勧誘、押し売り…セールスだろうか。
これも習慣の成せる技か?…おかしな気分だ。
様子を心配している父さんに向かって手を振り
心配無さそうだと合図しながら静かに僕は彼女に近寄った。
「恋人、名前はなんて言うんだ?」
父さんが小声で聞いて来た。
「理子…荒木理子さん」
「私も母さんに会えたら側にいてやりたい。」
そう聞くと僕はこの父さんで良かったと母さんに感謝した。
父さんに問答無用に彼女を追い出されるんじゃないかと
心配していたがそんな心配は無用だった様だ。
「彼女の両親には連絡していないんだ。これから連絡してみる。」
「そうか…そう自分で決めたなら、
辛い事だがしっかりとやり遂げなさい。」
「うん…。」
「宏幸…どうするつもりだった?
理子さんをこのまま床に倒しておくのもかわいそうだろう?」
「そうだよね…2階に連れて行こうと思ってて…」
「じゃあ、父さんは足の方を持つから、早く運んであげよう」
「ありがとう、助かる。」
父さんと2人して彼女を持ち上げ、
階段を上り彼女を僕の部屋へと運び入れた。
「お前に素敵な人がいたとは、まったく知らなかった…
この姿になる前の理子さんにも会ってみたかったな。」
父さんは彼女を僕の恋人だと信じて“理子さん”と呼ぶ。
親しみを感じる。父さんだけじゃなく、
母さんにも紹介してみたかったと本気で思うと、
久々に悲しみが沸き起こって来た。
地球上でこんな事態が起こると解っていたなら、
僕は彼女に真っ先に告白していたと思う。
いまさら遅いけど、こうなってみてはっきりと解る。
まったく伝わる事のない思いはこうも厳しいのか。
ただ僕がいる事を解ってくれたら…
それだけできっと思いは遂げられる。
もう僕を知られる事は永遠にないのかもしれないが
それでも僕はこれでいいと信じる。
ただ一緒にさえいられればいいと…。
彼女を僕の部屋のベッドに寝かせると父さんは階下へ降りて行った。
階段を普通に音をたてて降りたので、小声で呼び止め注意する。
「とうさん、やつらは音に反応するから
可能な限り静かに行動した方がいいよ。」
「そうか、すまない…お前の方が状況には詳しそうだな。
あとでいろいろ聞かせてくれ。疲れたからしばらく横になるよ。」
「うん、わかった。」
僕はベッドの上のこけし状態のままの彼女の
顔から嵌めていた猿ぐつわを外し、彼女の顔を見つめた。
彼女の首から上は相変わらず僕に向かって
食らい付く様な仕草を続ける。
彼女の両親に連絡しようと決心する。
確か僕の通っている高校の同級生名簿を
学習机の引き出しにしまったはずだ。
ベット脇の学習机を見下ろすと、
彼女の描いた沢山のハートマークが目に入って気が和んだ。
机の引き出しから名簿を探し出すとページをめくる。
彼女の住所を見つけ電話番号を確認する。
ジャージーのズボンのポケットに押し込んだままの
携帯電話を取り出すと彼女の家の電話番号を入力した。
発信ボタンを押そうとするが、力が入らない。
なんて言おう?何も考えていないままだった…どう話そうか
考えてから発進ボタンを押そうか?ご両親の生死もわからないし
もしかしたら例によって繋がらないかも知れない…そう思ったら
ふと発進ボタンを押していた。慌てて携帯電話を耳に当て
呼び出し音を聞いた。
「はい、荒木です…」
つ…繋がった!! 焦る。
「あ、あの僕、理子さんと同じ学校の生徒…」
「ただいま留守にしております。折り返しご連絡差し上げますので
発信音のあとにメッセージをお伝え下さい。………ピー」
留守電だ…どうする?一言入れておこうか?
「僕は成美高校の生徒です。また電話します。」
とっさに出た対応。ひとまずやり遂げた感で携帯を耳から離し
通話を切ろうとした時、受話器から声がした。
「理子の学校のコか?! もしもし? 理子の事、何か知っているのか?
無事なのか?! 理子は?! もしもし、もしもし!!」
聞こえて来たのは今にも泣き出しそうな
悲痛な叫びにも似た男性の声だった。
その響きに僕もパニックを起こしそうになったが
毅然としなければと、気を取り直した応える。
「はい、僕は選択教科が同じ教室だったので
理子さんを知っていました。」
「そうか、それで理子は…理子は無事なのか?どうなんだ?」
「昨日、僕が観た時にはもう…」
一端口ごもったが後には引けなかった。
「亡くなっていました。」
受話器を落としたのか、僕の耳にゴツンと音が響き
何やら話し声が細々と聞こえて来た。今出たのは父親だろうか?
受話器の近くには三人程いるらしく微かに声が聞こえて来るが
何を言っているのかまでは聞き取れない。
他にも家族が無事らしいのはわかった。
僕はどうしていいのかわからず、
そのまま携帯の受話器を耳に当てたまま少し待つと、
今度は別の男性の声が僕に話しかけた。
「もしもし、それは間違いないんですね?」
「はい。間違いないです。」
「私は理子の兄です。ご連絡有り難う御座居ました。
それで、理子をどこで見かけたんですか?」
「学校の校庭で酷い怪我を負っていました。」
「どんな怪我だったか、憶えていますか?」
「あの…左腕を噛みちぎられていて…」
「酷いな…ならば既に理子は変異体だったのですね?」
「はい…残念ですが…」
「それなら、まだ高校付近にいるかも知れないな
明日、行ってみるよ。」
「え?」
なんだって? 今、探しに来るって言ったよな?
どうしよう、まさかこんな展開になるとは考えもしなかった。
いや、僕がそうした様に、身内であればなおさらなのか?
僕の家にいると告げた方がいいのか?
彼女との生活が無くなるかも知れないんだぞ?
それでもいいのか?
「理子を徘徊させたままなのは可哀相だ。
変異体でもなにか憶えているらしいと言う噂を聞いた。
家族と過ごせば生前の記憶を思い出すかも知れないだろ?
必ず探し出して連れて帰るよ。」
机の上に描かれた沢山のハートマークに目が行った。
これは彼女特有の記憶に違いない…記憶が、生きている…
「あ…明日、僕が理子さんをそちらまでお連れします。」
何を言い出すんだ自分!!
僕の口から出た言葉は思いもよらない言葉だった。
危険を冒してまで彼女を家族の元へ届ける?
彼女との暮らしを諦めて?
「赤の他人をそんな危ない目には遭わせられないよ
僕が学校へ見にいくから…」
「理子さん、僕の家にいるんです」
「え?! 君、今なんて?」
「僕も同じだったんです、理子さんをあのまま
校庭には置き去りに出来なくて…
だから僕が責任を持って送り届けます。
どうか、待っていて下さい!!」
「ちょっと、君、どういう事か説明してくれ…君、名前は…」
説明しても理解してももらえるか判らないので
とにかく勢いで通話を切ってしまった。
名前を聞かれていたのに…
緊張していたせいか名乗るのを忘れていた。…印象悪いだろうな。
なんでこんな事になったんだろう? 本当にそれでいいのか?
家族の事をなにか思い出すかも知れないなんて聞いたせいだ。
ついさっきまで彼女との生活を奪うものがいれば戦うとまで
意気込んでいた自分がいたのに…驚きだ。
そう、少しでも彼女なりの生前の行動を示せるのなら、
彼女は生きているとも言えるはず…。
そんな可能性があるのならば…
僕は素直に、
彼女が、
生きて、
いて欲しいと
願ってしまった。
僕は自分の部屋を出て階段を下り
リビングのソファーで横になっていた
父さんにこの事を報告した。
父さんは目を擦りながら起き上がると
「そうか、それなら父さんも手伝おう。明日、車を出す。
理子さんを家族の元に連れて行ってあげよう。」
息子の一大事にそう言ってくれた。
僕一人で行くつもりだったけれど、そうなら心強い。
父さんはそのままリビングを見渡しこう続けた。
「バリケードに新聞紙…お前一人でやったのか?」
「うん…」「上出来じゃないか」
「…そう?兎に角夢中だったからしっかり出来ているかは判らないけど」
「私は、昨日ずっと会社のビルに閉じこもっていただけで
食堂のテレビから得た情報しか入っていない。
お前が体験した事は役に立ちそうだ。教えておいてくれ。」
そう言われると、僕はとりあえずやっては行けないと言う事を
父さんに伝えた。
「一番してはいけない事は、
やつらの頭を攻撃する事だって。…消防士に聞いたんだ。」
「あぁ、駅まで送ってもらった車中のラジオでそう言ってたな。
より狂暴になるって話だよな?」
「やつらは生前に経験して来た習慣によってある程度行動している
みたいだから頭を破壊してしまうとその習慣が損なわれ、
ただ人間に対する攻撃しかしなくなるんだって。それにもう一つ、
これも重要な事だけど、やつら、口を破損するかで失ったりすると、
どういうわけか傷口や骨が口の代わりをする可能性があるんだって。
だから傷口にも注意が必要らしいんだ。要は頭は残しておいた方が
いいという事に繋がるみたいだけど…」
「そう言う意味だったのか。習慣性の事は知らなかったよ。」
「あとは…目隠ししてもやつらには人間がどこにいるか判るんだ。
壁越しにはわからいみたいだけど。それと…音には反応しやすい、
力は異常に強くて、人間を攻撃する為なら自分の体がいくら壊れても
向かって来る、さらにバラバラにしても丸焦げに焼かれても
腐っててもミイラ化していても動いて襲って来る…」
「ミイラ?そんなやつまでいるのか?」
「見たんだ…となりの五十嵐さん夫婦、ミイラみたいだったよ…
殺されて埋められていたみたい。」
「なんだって? 五十嵐さん、殺された?いつそんな目に?!」
「僕だって知るわけないじゃないか。」
「そりゃそうだな…でもなんだ…
死んでる事、知らせて来たみたいだな。」
死の知らせ…死の存在…死の主張…
明らかに昨日からの出来事は
完全に僕らに死を思い知らせているとも取れるのだ。
「それから、これは父さんに最も関係ある事だけど…」
「なんだ?」「母さんの事だよ…今日も、また帰って来ると思う。」
「さっき話していた夕方の帰宅時間の事だな。」
「どうするの?昨日は母さんだと気が付かなくて…
怖くてそのままにしちゃったけど…」
「本当に母さんなら、周りに危険がなければ家にあげようと
思っている。気持ちは理子さんの家族と同じだよ。
例えどんな酷い状態でも、家族だ。」
「うん、解った。僕も手伝う。」
「でも危険なら諦める、これは絶対だ。」
「うん。」
僕は頷いてからリビングの壁にかけられた時計の針を見た。
4月の陽が暮れるまではまだ2時間程あった。
ぐぅ〜〜〜〜〜………
腹の虫が再び暴れ出す。父さんと顔を見合わせ
大笑いしそうになったが、大声はまずいと気が付き
堪えて2人で小さく笑った。
「父さん、なにか作れる?」
「まかせろ、大学生の頃、寮で過ごしてたから結構作れるぞ」
「そうなんだ、そんな事初めて聞いたよ。」
父さんが冷蔵庫を覗き始めた。
「ステーキ肉があるじゃないか!! スタミナつけるか?」
パックされた牛肉を取り出した父さんはキッチンへ移動すると
フライパンを持ちコンロの上に乗せた。
コンッ…と金属が当たる音がして警戒する。
「まずいな…」
そこで父さんに疑問が湧いたようだ。
「なあ宏幸、やつら、臭いにも敏感なのか?」
「臭い?そう言えば聞いた事ない…どうかな…でも
万が一の事もあるから警戒した方がいいよね?」
そう聞くと父さんは独り言の様にぶつぶつと唱え出した。
「果して存在感を出さずにステーキは焼けるのか?」
「火をつける、炎が光る、焼く、音がする、煙がでる、臭いがでる、
換気扇を回す、音が出る、 塩胡椒、くしゃみが出る、
ボイルは?、換気扇は回すだろう……
…食べるなら、生か、レンジでチンしか無さそうだぞ?」
それが父さんの出した答えだった。
「チンの音は大丈夫?ウチはピーだけど…」
「毛布でも被せようか?隙間を持たせて…念のために。」
腹ごしらえまで命がけだ。
今朝のトイレの水を流す一件もそうだった。
生きるだけでも大変な事態なんだと
今、初めて気が付いた。
(続く)
→第20章へ。
[portrait of the dead]
「おい宏幸!!、母さんは!!…母さんは無事なのか?!」
僕の両肩を掴んで前後に揺さぶりながら
父さんは繰り返しその事を僕に尋ねた。
「母さん…母さんは…」
僕は昨日見た下半身の無い血まみれの母さんの事を思い出し
言葉が見つからない。なんて説明したらいい?
それと同時に僕の背後にいるこけし状の彼女を立たせたままの状態も
気になって頭が混乱し、父さんの質問に対して口ごもったまま
何の返答も出来ない。
ふと、僕を揺らし続けていた父さんの腕が放される。
「宏幸、あれは…あれは何だ?まさか、母さんか?!」
彼女を気付かれた。父さんは被っていた黒いフルフェイスの
ヘルメットを頭から脱ぐと床へ落とし、靴を脱いで家に上がると
廊下をゆっくりと歩き始め、彼女へと近づいて行った。
僕は慌てて父さんを引き止めようとする。
「父さん!! 待って、それ…そのコは…」
父さんは彼女の1m程前に辿り着くと彼女に向かって言い放った。
「おい!! ば…化物じゃないか!!…宏幸、お前…何考えてるんだ!?」
その言葉を聞いた僕の頭に急に血が登る。
「ば!!…化物なんて言うなよ!!…こ、恋人なんだよ!!
彼女を外に置き去りには出来なくて、家に連れて来たんだ。」
怒鳴った僕に父さんは驚いた様だった。
そう仲がいいわけでは無かったが、過去に父さんに向かって
怒鳴た事など一度も無かったからかも知れない。
化物呼ばわり…僕の周りの空気が変わった。
明らかに僕と彼女の2人だけの世界は夢の中だ。
目の前には恐れていた新たな敵が現われた様にも思えた。
交際を認められなかったカップルはこんな心境だろうか?
僕は彼女を引き止める為なら、父さんだろうが戦う覚悟だ。
父さんは彼女に背を向け僕の方へ向きなおした。
どう出る?父さん、僕と騒動を起こす?
「そ…そうか、すまなかった。
お前の大切な人だとは気が付かなくて。
でもこんな状態の訳の分からない狂暴な存在と一緒に過ごすのは
危険すぎる…好きなのも解るが、これはそれだけではすまない話だ。
よく考えて行動しよう。」
いきり立った僕に対して、
思いがけず冷静な態度で対応して来た父さんに意表をつかれ、
今度は頭に登った血が一気に引いた様だった。
彼女が追い出されるかも知れないと言う不安感が襲い
僕にこう言わせた。
「か…母さんも、たぶん彼女と同じだ。」
「…?、母さんを見たのか? 今、どこにいる?」
「どこにいるかは知らないよ。でも昨日の夕方、
玄関のドアを叩き続けていたみたいだ…」
「無事なんじゃないのか?なんで母さんを家にあげなかった?」
「ドアを開けられなかったんだよ。父さんは会社にいて
知らないかもしれない…夕方、近所の家に次々にやつらが帰宅して
それぞれの家の玄関をノックし始めたんだ。
近所にやつらがウヨウヨしていて…僕が気が付かれ
押し寄せられたらひとたまりもないだろ?
そんな状況で、あの騒音の中で、玄関を叩いているのが
母さんだなんて考えられなかったんだ。
しかも玄関を叩いている場所がドアの下の方だったし…
だから母さんだって思いもしなかったんだよ…」
「…なぜ、母さんだと判った?
お前は玄関を開けて確認はしていないんだろ?」
「音が止んだとき…玄関の覗き穴から見たんだ。…母さんだよ。
僕に編んでくれた中学時代のお古のセーターを着ていた。」
「………」
父さんは青ざめた顔で絶句していた。一息置いた所で口を開く。
「セーター…見間違いじゃないんだな?」
「…うん」
「母さんは死んでいたんだな?… 本当にやつらと同じだったんだな?」
生死を疑う父さんに僕はその事を知らせるしか無かった。
「…いい?気をしっかり持って聞いてね、母さんドアの下の方を
叩いてたって言ったよね?」
「あぁ…そう聞いた…。」
「母さん立てなかったんだよ…だから下しか叩けなかった。
…母さんさ、下半身を食べられてしまっていたんだ
…だから立てるわけが無くて…」
下半身が無い…その言葉が堪えた様で
父さんは廊下の壁にもたれかかりしゃがみ込む。
「そうか…それじゃあ、無事でいるわけないか…」
そうぼそりと呟くと薄暗い家の中の空気がさらに
冷えて行ったように感じた。彼女は目の前で動く
父さんが気になる様で、こけし状に縛り付けられた体ながらもぞもぞと
動き続けるとバランスを崩し背中から床へ倒れ込んだ。
「あぁ!!」 それに気付き僕は受け止めようと慌てて腰を上げるが
全く間に合わない。床めがけ、彼女の頭がぶつかる
…寸前に彼女の頭が止まった。父さんがかろうじて彼女を支えていた。
「あ…ありがとう」 僕は父さんの意外な行動に安堵感を得ていた。
ゆっくりと彼女を床に寝かせながら父さんは話し始めた。
「そうか、母さんも…助からなかったのか…
悲しいが…いつまでも落ち込んでいたら
母さんにどやされそうだ…心配に気をもむのも辛い…
こうなればこれからの事を考えるしか無い…判って良かった…」
父さんはその言葉をたぶん自分に言い聞かせていたのだろう。
そして廊下の床に寝かせた彼女の顔を見つめながらこうも言った。
「なぁ宏幸…恋人のご両親はこの事を知っているのか?
心配しているんじゃないか?無事を…」
「………!!」
今度は僕が絶句した。考えもしなかった!!
当たり前だ!! 彼女の両親が生きているならば、
彼女を心配しているに違いない!!
なんで気が付かなかったんだろう…
自分の事ばかり考えていたからだ。
彼女にだって彼女の環境がある。
この事を彼女の両親に伝えた方がいいのだろうか?
彼女の死をどう告げればいいのだろうか?
僕は立ちすくんだままその場でしばし考え込み…
家はしばらく静まり返った。
ドンッ…
何かが壁にぶつかった時の様な音が
静寂に包まれた薄暗い家の中に響いた。
我に帰る。僕と父さんに緊張が走った。
父さんは僕に向かって人差し指を立てると自分の唇に当て
静かにという仕草をした。やつらに気付かれたのだろうか?
僕と父さんの会話が外に漏れていた?…可能性はある。
迂闊にもお互い声を張り上げた所がある…。
ドンッ…
また音がした。
音は僕の背にある玄関のドアからだ。
ドンッ…
音はドアの下の方からではない…母さんじゃ無さそうだ。
“騒がしい夜”にはまだ日が高い…。
しかしやつらの一体がまぎれも無く玄関の外側にいる事は
間違い無さそうだった。物音一つ立てられない。
なんの為に僕の家に?父さんと目を見合わせる僕に
ドアの覗き穴から覗けと父さんからジェスチャーが届いた。
僕もそう思っていた。やるしか無い…息をのみ僕はゆっくりと
玄関のドアに近づいて穴から外を覗き込んだ。
「………!!」
僕は穴から見えたものに驚く。
穴の先には目玉が見えた!! 向こうからも覗き込んでいる!!
大丈夫、落ち着け。向こうからは見えないはずだ。
暫く、そいつの目を見つめていると、後ろへ下がったのか
血まみれの顔がはっきりと見えて来た。
両頬の辺りを食われて骨がむき出しだったが見覚えは無かった。
徐々にそいつはドアから離れ玄関に背を向け、家の敷地内から
外へと歩き出す。スーツ姿のその男は左手にブリーフケースを
持っていてふらついた足取りで家の前の道路を右に向かう。
道路上には他に中年女性に見えるやつを1体確認する。
その女性は向かいの家の塀に付けられた郵便受けの前に立ち止まると
右手を郵便受けに差し込む。踵を返し今度は僕の家に近づき
玄関の石畳の入口に立てられた郵便受けに向かって
同じ動作を繰り返して去って行った。
隣りの五十嵐さん宅の玄関を叩く音が耳に微かに届く。
さっき、右手に向かったスーツの男が
同じ動作を繰り返しているのかも知れない。
働いている…やつらが。
ポスティングに勧誘、押し売り…セールスだろうか。
これも習慣の成せる技か?…おかしな気分だ。
様子を心配している父さんに向かって手を振り
心配無さそうだと合図しながら静かに僕は彼女に近寄った。
「恋人、名前はなんて言うんだ?」
父さんが小声で聞いて来た。
「理子…荒木理子さん」
「私も母さんに会えたら側にいてやりたい。」
そう聞くと僕はこの父さんで良かったと母さんに感謝した。
父さんに問答無用に彼女を追い出されるんじゃないかと
心配していたがそんな心配は無用だった様だ。
「彼女の両親には連絡していないんだ。これから連絡してみる。」
「そうか…そう自分で決めたなら、
辛い事だがしっかりとやり遂げなさい。」
「うん…。」
「宏幸…どうするつもりだった?
理子さんをこのまま床に倒しておくのもかわいそうだろう?」
「そうだよね…2階に連れて行こうと思ってて…」
「じゃあ、父さんは足の方を持つから、早く運んであげよう」
「ありがとう、助かる。」
父さんと2人して彼女を持ち上げ、
階段を上り彼女を僕の部屋へと運び入れた。
「お前に素敵な人がいたとは、まったく知らなかった…
この姿になる前の理子さんにも会ってみたかったな。」
父さんは彼女を僕の恋人だと信じて“理子さん”と呼ぶ。
親しみを感じる。父さんだけじゃなく、
母さんにも紹介してみたかったと本気で思うと、
久々に悲しみが沸き起こって来た。
地球上でこんな事態が起こると解っていたなら、
僕は彼女に真っ先に告白していたと思う。
いまさら遅いけど、こうなってみてはっきりと解る。
まったく伝わる事のない思いはこうも厳しいのか。
ただ僕がいる事を解ってくれたら…
それだけできっと思いは遂げられる。
もう僕を知られる事は永遠にないのかもしれないが
それでも僕はこれでいいと信じる。
ただ一緒にさえいられればいいと…。
彼女を僕の部屋のベッドに寝かせると父さんは階下へ降りて行った。
階段を普通に音をたてて降りたので、小声で呼び止め注意する。
「とうさん、やつらは音に反応するから
可能な限り静かに行動した方がいいよ。」
「そうか、すまない…お前の方が状況には詳しそうだな。
あとでいろいろ聞かせてくれ。疲れたからしばらく横になるよ。」
「うん、わかった。」
僕はベッドの上のこけし状態のままの彼女の
顔から嵌めていた猿ぐつわを外し、彼女の顔を見つめた。
彼女の首から上は相変わらず僕に向かって
食らい付く様な仕草を続ける。
彼女の両親に連絡しようと決心する。
確か僕の通っている高校の同級生名簿を
学習机の引き出しにしまったはずだ。
ベット脇の学習机を見下ろすと、
彼女の描いた沢山のハートマークが目に入って気が和んだ。
机の引き出しから名簿を探し出すとページをめくる。
彼女の住所を見つけ電話番号を確認する。
ジャージーのズボンのポケットに押し込んだままの
携帯電話を取り出すと彼女の家の電話番号を入力した。
発信ボタンを押そうとするが、力が入らない。
なんて言おう?何も考えていないままだった…どう話そうか
考えてから発進ボタンを押そうか?ご両親の生死もわからないし
もしかしたら例によって繋がらないかも知れない…そう思ったら
ふと発進ボタンを押していた。慌てて携帯電話を耳に当て
呼び出し音を聞いた。
「はい、荒木です…」
つ…繋がった!! 焦る。
「あ、あの僕、理子さんと同じ学校の生徒…」
「ただいま留守にしております。折り返しご連絡差し上げますので
発信音のあとにメッセージをお伝え下さい。………ピー」
留守電だ…どうする?一言入れておこうか?
「僕は成美高校の生徒です。また電話します。」
とっさに出た対応。ひとまずやり遂げた感で携帯を耳から離し
通話を切ろうとした時、受話器から声がした。
「理子の学校のコか?! もしもし? 理子の事、何か知っているのか?
無事なのか?! 理子は?! もしもし、もしもし!!」
聞こえて来たのは今にも泣き出しそうな
悲痛な叫びにも似た男性の声だった。
その響きに僕もパニックを起こしそうになったが
毅然としなければと、気を取り直した応える。
「はい、僕は選択教科が同じ教室だったので
理子さんを知っていました。」
「そうか、それで理子は…理子は無事なのか?どうなんだ?」
「昨日、僕が観た時にはもう…」
一端口ごもったが後には引けなかった。
「亡くなっていました。」
受話器を落としたのか、僕の耳にゴツンと音が響き
何やら話し声が細々と聞こえて来た。今出たのは父親だろうか?
受話器の近くには三人程いるらしく微かに声が聞こえて来るが
何を言っているのかまでは聞き取れない。
他にも家族が無事らしいのはわかった。
僕はどうしていいのかわからず、
そのまま携帯の受話器を耳に当てたまま少し待つと、
今度は別の男性の声が僕に話しかけた。
「もしもし、それは間違いないんですね?」
「はい。間違いないです。」
「私は理子の兄です。ご連絡有り難う御座居ました。
それで、理子をどこで見かけたんですか?」
「学校の校庭で酷い怪我を負っていました。」
「どんな怪我だったか、憶えていますか?」
「あの…左腕を噛みちぎられていて…」
「酷いな…ならば既に理子は変異体だったのですね?」
「はい…残念ですが…」
「それなら、まだ高校付近にいるかも知れないな
明日、行ってみるよ。」
「え?」
なんだって? 今、探しに来るって言ったよな?
どうしよう、まさかこんな展開になるとは考えもしなかった。
いや、僕がそうした様に、身内であればなおさらなのか?
僕の家にいると告げた方がいいのか?
彼女との生活が無くなるかも知れないんだぞ?
それでもいいのか?
「理子を徘徊させたままなのは可哀相だ。
変異体でもなにか憶えているらしいと言う噂を聞いた。
家族と過ごせば生前の記憶を思い出すかも知れないだろ?
必ず探し出して連れて帰るよ。」
机の上に描かれた沢山のハートマークに目が行った。
これは彼女特有の記憶に違いない…記憶が、生きている…
「あ…明日、僕が理子さんをそちらまでお連れします。」
何を言い出すんだ自分!!
僕の口から出た言葉は思いもよらない言葉だった。
危険を冒してまで彼女を家族の元へ届ける?
彼女との暮らしを諦めて?
「赤の他人をそんな危ない目には遭わせられないよ
僕が学校へ見にいくから…」
「理子さん、僕の家にいるんです」
「え?! 君、今なんて?」
「僕も同じだったんです、理子さんをあのまま
校庭には置き去りに出来なくて…
だから僕が責任を持って送り届けます。
どうか、待っていて下さい!!」
「ちょっと、君、どういう事か説明してくれ…君、名前は…」
説明しても理解してももらえるか判らないので
とにかく勢いで通話を切ってしまった。
名前を聞かれていたのに…
緊張していたせいか名乗るのを忘れていた。…印象悪いだろうな。
なんでこんな事になったんだろう? 本当にそれでいいのか?
家族の事をなにか思い出すかも知れないなんて聞いたせいだ。
ついさっきまで彼女との生活を奪うものがいれば戦うとまで
意気込んでいた自分がいたのに…驚きだ。
そう、少しでも彼女なりの生前の行動を示せるのなら、
彼女は生きているとも言えるはず…。
そんな可能性があるのならば…
僕は素直に、
彼女が、
生きて、
いて欲しいと
願ってしまった。
僕は自分の部屋を出て階段を下り
リビングのソファーで横になっていた
父さんにこの事を報告した。
父さんは目を擦りながら起き上がると
「そうか、それなら父さんも手伝おう。明日、車を出す。
理子さんを家族の元に連れて行ってあげよう。」
息子の一大事にそう言ってくれた。
僕一人で行くつもりだったけれど、そうなら心強い。
父さんはそのままリビングを見渡しこう続けた。
「バリケードに新聞紙…お前一人でやったのか?」
「うん…」「上出来じゃないか」
「…そう?兎に角夢中だったからしっかり出来ているかは判らないけど」
「私は、昨日ずっと会社のビルに閉じこもっていただけで
食堂のテレビから得た情報しか入っていない。
お前が体験した事は役に立ちそうだ。教えておいてくれ。」
そう言われると、僕はとりあえずやっては行けないと言う事を
父さんに伝えた。
「一番してはいけない事は、
やつらの頭を攻撃する事だって。…消防士に聞いたんだ。」
「あぁ、駅まで送ってもらった車中のラジオでそう言ってたな。
より狂暴になるって話だよな?」
「やつらは生前に経験して来た習慣によってある程度行動している
みたいだから頭を破壊してしまうとその習慣が損なわれ、
ただ人間に対する攻撃しかしなくなるんだって。それにもう一つ、
これも重要な事だけど、やつら、口を破損するかで失ったりすると、
どういうわけか傷口や骨が口の代わりをする可能性があるんだって。
だから傷口にも注意が必要らしいんだ。要は頭は残しておいた方が
いいという事に繋がるみたいだけど…」
「そう言う意味だったのか。習慣性の事は知らなかったよ。」
「あとは…目隠ししてもやつらには人間がどこにいるか判るんだ。
壁越しにはわからいみたいだけど。それと…音には反応しやすい、
力は異常に強くて、人間を攻撃する為なら自分の体がいくら壊れても
向かって来る、さらにバラバラにしても丸焦げに焼かれても
腐っててもミイラ化していても動いて襲って来る…」
「ミイラ?そんなやつまでいるのか?」
「見たんだ…となりの五十嵐さん夫婦、ミイラみたいだったよ…
殺されて埋められていたみたい。」
「なんだって? 五十嵐さん、殺された?いつそんな目に?!」
「僕だって知るわけないじゃないか。」
「そりゃそうだな…でもなんだ…
死んでる事、知らせて来たみたいだな。」
死の知らせ…死の存在…死の主張…
明らかに昨日からの出来事は
完全に僕らに死を思い知らせているとも取れるのだ。
「それから、これは父さんに最も関係ある事だけど…」
「なんだ?」「母さんの事だよ…今日も、また帰って来ると思う。」
「さっき話していた夕方の帰宅時間の事だな。」
「どうするの?昨日は母さんだと気が付かなくて…
怖くてそのままにしちゃったけど…」
「本当に母さんなら、周りに危険がなければ家にあげようと
思っている。気持ちは理子さんの家族と同じだよ。
例えどんな酷い状態でも、家族だ。」
「うん、解った。僕も手伝う。」
「でも危険なら諦める、これは絶対だ。」
「うん。」
僕は頷いてからリビングの壁にかけられた時計の針を見た。
4月の陽が暮れるまではまだ2時間程あった。
ぐぅ〜〜〜〜〜………
腹の虫が再び暴れ出す。父さんと顔を見合わせ
大笑いしそうになったが、大声はまずいと気が付き
堪えて2人で小さく笑った。
「父さん、なにか作れる?」
「まかせろ、大学生の頃、寮で過ごしてたから結構作れるぞ」
「そうなんだ、そんな事初めて聞いたよ。」
父さんが冷蔵庫を覗き始めた。
「ステーキ肉があるじゃないか!! スタミナつけるか?」
パックされた牛肉を取り出した父さんはキッチンへ移動すると
フライパンを持ちコンロの上に乗せた。
コンッ…と金属が当たる音がして警戒する。
「まずいな…」
そこで父さんに疑問が湧いたようだ。
「なあ宏幸、やつら、臭いにも敏感なのか?」
「臭い?そう言えば聞いた事ない…どうかな…でも
万が一の事もあるから警戒した方がいいよね?」
そう聞くと父さんは独り言の様にぶつぶつと唱え出した。
「果して存在感を出さずにステーキは焼けるのか?」
「火をつける、炎が光る、焼く、音がする、煙がでる、臭いがでる、
換気扇を回す、音が出る、 塩胡椒、くしゃみが出る、
ボイルは?、換気扇は回すだろう……
…食べるなら、生か、レンジでチンしか無さそうだぞ?」
それが父さんの出した答えだった。
「チンの音は大丈夫?ウチはピーだけど…」
「毛布でも被せようか?隙間を持たせて…念のために。」
腹ごしらえまで命がけだ。
今朝のトイレの水を流す一件もそうだった。
生きるだけでも大変な事態なんだと
今、初めて気が付いた。
(続く)
→第20章へ。
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