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自作ゾンビ小説の草稿投稿中。
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いらっしゃいませ。


自作のゾンビ物語の草稿を投稿中です。
予定では4日間の出来事として書いて
いますが3年も経つと言うのにようやく
3日目。それでもめげずにやって来れた
のは読んでくれる方がいらっしゃるから
こそと感謝しています。今後も感想なり
コメント頂けますと非常にやる気と
励みになります。宜しければ一言でも
添えて頂けますと嬉しいです。
自作ゾンビ物語。
[portrait of the dead]

めざせ!! ゾンビ小説家!!
ゾンビが好きすぎて自作のお話なんか
拵えております。なにぶん素人の
書く物語なので大目にみて下さい。
「ゾンビと暮らす。」(仮)→目次
スペシャル企画。
不定期更新
◆ZOMBIE vs. BABY◆


「生ける屍対赤児/目次」
「産まれて間もない新生児」と
「死して間もないゾンビ」との比較検証。
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南瓜金助 (みなみうりごんすけ)
性別:
男性
自己紹介:
別HNカボチャスキのお送りします
来た人だけが知っている秘密の部屋。
言うに洩れずホラー映画が好きです。
憧れの人はフック船長と芹沢博士に
スネーク・プリスキンとDr.ルーミス。
彼らに多大なる恩恵を授かりました。
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→目次ページはコチラから

[portrait of the dead]



かんぴょう巻き、納豆巻き、カッパ巻き、ツナマヨ巻き、

のり巻きで一番好きなのは何だろう。

鉄火巻き、ネギトロ巻き、たくあん巻き、理子巻き。

…最後のは、僕が食べられる方だった。


お腹が空いて来たせいか?おかしな事を考える。
起き抜けに魚肉ソーセージを食べただけだ。
台所脇の冷蔵庫を覗いた。
よく考えたら、料理は小学校の時の家庭科の調理実習と
これもまた子供の頃、町内会で行ったキャンプ場での
カレーライス作りでしか作った記憶がない。
いざ、自分で何かを作ろうとして冷蔵庫を覗いても
レパートリーすら入っていない頭では料理を作り様が無い。
…先が思いやられる。兎に角、こうなれば日持ちしなさそうな
食材から片付けなければ。なにか力がつきそうなものをと冷蔵庫の
チルド室も見る。そこで目に入ったのはステーキ用の牛肉が三枚。

…僕の分、
父さんの分、
母さんの分と、

家族の枚数が揃っていた。そうだ、悠長に料理に挑戦しようと
している場合じゃなかった。父さんが帰って来るまでに
彼女をなんとかしておかないと。見られるのは良くない。
発見され、彼女を追い出されるのは辛い。

「いっそ一緒に駆け落ち?」

…死にに行くようなものか…無理だろう。

「…ありがとう、母さん。」 また呟く。

彼女は掛け布団と毛布を体に巻き付けられ、シーツでさらに包まれ、
そのシーツの四隅で縛り止められた、またもやのり巻きの様な状態で
寝室のベッドに横たわっている。頭に被せてあった
ジャンバーは外してある。前回と違うのは足先は出しておらず、
首から上の彼女の顔がのり巻きから出ている事だ。
猿ぐつわで顔を歪められる事のない整った彼女の顔が
はっきりと見て取れるようになっていた。

冷蔵庫から離れ、寝室のドアを開けると蛍光灯の光に
照らされた彼女の顔を見る。僕はベッド脇に近づき
横たわった彼女を上から見下ろしていた。

…綺麗だと思う。

注意深く観ると瞳孔に収縮のなくなった
瞬きをしない目は開かれたままで、目が乾きそうに思えたけれど
どういう訳か瞳は潤いを見せ眼球をゆっくりと滑らせていた。
口に至っては顎を上下させるなどして閉じたままになる気配すらないが
覗かせた舌は瑞々しい艶を纏い、艶かしい輝きを放っていた。

観ているとふと、食中毒菌の繁殖したケーキは数日
たっても腐るどころかまるで買って来たばかりの様に見えると
言う話を聞いた事があるのを思い出した。それが本当だとしたら
変わりなく見せるくらいなら自然の力でもある程度は可能と
言う事なのか?…まるで生きている人間の様に見える死んだ人間。
乾かないのか?干涸びないのか?朽ちないのか?
当然、朽ち果て、腐り落ちてしまっては、このやつらの
蔓延はそう長くは持たないものになる気もするし
これなれば長期化も必至と考えるのが妥当だろう。

ましてや、今朝目の当たりにした、虫の湧いた半ミイラ化した
死体ですら徘徊し始めている姿は、まるで虫達に操られているかの
ようにも見え、いつだったかTVで、バッタに寄生した線虫だかが
寄生したバッタを操り、繁殖の為に必要な水辺へと向かわせると
バッタには死を意味するであろう水中に飛び込ませる、
と言った話をしていた事も思い出していた。

…細菌操られ死体説? やつらからはまだそう言った菌や寄生虫が
発見されたと言う情報は無いけれど、何らかが寄生し死体を操り、
そいつが生きる為に人肉を欲しているなんて事になれば、
変化の無いケーキや線虫の事からも、全くの不自然とも言いきれない
のかもしれない。そう考えると、もはや腐食はやつらを
分解する事をやめ、虫達に微生物、菌類までやつらを
足止めする力にはならないのだとも思えて来た。
…この世の常は僕たちの味方ではないと言う事なのかもしれない。
そうだった…死体が蘇って人間を喰らう事態から始まり、
やつらのバラバラにされても動き続ける実態まで、
この世の常は既には意味を失っていた。
…寄生虫や微生物どころの騒ぎじゃないか。
異常過ぎる。

ともあれ、彼女の現状が維持されるのであれば僕にとって非常に
喜ばしい事には違いない。しかしそれが、それが人肉を喰らう事に
よってのみ維持される事であるならば、僕は生きている人間を狩り、
彼女に人肉を与え続けなければならないという選択を迫られる事に
なるのだろうか。…僕に出来るのか?そんなこと。
死者を残す為に生者を殺す生者。彼女は常に人肉を求めている。
彼女はずっと空腹なのだろうか?主食は人肉だけ?
このまま彼女と生涯暮らし続けるのであれば、
僕はこの先、どうなって行くのだろう…。

………… いや、落ち着け、ちょっと待て。
それは今考える事ではないだろう。
今すぐに、考える事が他にあった。


寝室の明かりを消す。部屋の中に彼女を残しドアを閉める。
薄暗い中、リビングのテレビを点け、片耳にイヤーホンを差し込み、
新しい情報がないか見始める。父親が帰って来れそうな状況なのかも
知る必要がある。画面に現われたのは最近このチャンネルでよく
見かけるようになった新人女性アナウンサーだ。気丈に振るまっては
いるものの泣き明かしたのか目は少し腫れが残っている印象だった。
画面は「当関係局での第一報から現在までのダイジェスト」と
紹介されたVTRが流れ始め、昨日1日の様子を足早に説明し始る。

始まりは、“死体が動き始め人々を襲っている”と言うニュース画面。
昨日…理由は全く解らないがこの状況からおそらく時を同じくして
いたる所で突然“さっきまでは死んでいた死体達”が動き出したに
違いない。死体が近辺にある環境にあった医師や救急隊員、あるいは
葬儀中といった人々に蘇った死体達は襲いかかり、咬まれたものは即死、
または一時間前後で死に至り、それらがまた人々に襲いかかると言った
その繰り返し。未曽有の第一報が告げられると、避難や警戒する人々の
混乱がパニックを呼び、暴動を煽り、怪我人や被害者が
次々と増えていったと言う状況を思い出す。テレビ画面はお偉い
なんたら大臣の広報、“変異体には絶対近づかない”、
“戸締まり等がしっかりされた侵入を阻止出来る様な厳重な家
または避難所に避難”、“変異体発生の原因究明を急ぐ”と言った
昨日と殆ど変わらない内容で、今の所これと言って目新しい情報は無い。

VTRはネットの動画サイトに投稿されたと言う映像に変わる。
携帯カメラで撮影されたそのムービーはある池の橋の上から
撮ったものの様で早い時間らしく朝のジョギング中の人々の姿も見えた。
撮影している女性の声だろうか、叫んでいる様子だ。
「見て!! 見て!! あの石垣の所…人が、人がよじ登ろうとしてるでしょ?
 あれ、なんか、おかしくない?まっ白で、水草が絡まってて…」
遠くにかろうじて映るのは池の石垣から畔の芝生によじ登ろうとする
人影。その人影に手を差し伸べ池から引き上げたジョギング中の男性
…噛まれる。辺りは騒然となり、おそらくは救急へ連絡する者、
心配で駆け寄る人、水草の人物を取り押さえる人の姿で終わる。

次の映像はテレビカメラのようだ。
よくある下町の行列出来る店の取材中らしい。
店はまだ開店前にも関わらず既に長い行列ができている。
具合の悪そうな老人男性が一人、行列の最後尾の遥か後方から道を
ふらふらと徘徊し近づいて来る姿が映し出される。行列の人々は
おかしいと気付くもこの場から移動すれば折角並んだ場所を失うと
思うのか、警戒はするも全く動かない。カメラは老人を映し続け
老人が行列の最後尾の女性を背後から襲った姿を捉えた。
襲われた女性は首筋の動脈を咬みちぎられたのか、大量の血を
飛ばしながら倒れ込み、辺りはパニックに。老人を取り押さえていた
男性もまた噛まれ老人は放り投げられる。噛まれた女性は、恋人らしき
男性に抱えられ首の傷口を押さえられているがすぐさまぐったりと
動かなくなり死んでしまったと思われたが、刹那、女性は動き始め
抱えていた男性に向かって両腕を延ばしだし、男性は悦びの笑みを
浮かべ女性の抱擁を受け入れるも、女性はそのまま男性の顔面を
喰らい始めた。

デパ地下のグルメ取材中の映像に変わる。
太めのグルメリポーターは片手に団子を持ち、口をモグモグさせている。
後方で既に何事か起こっていて騒然となったデパートの地下食品売場。
カメラは移動し始め、避難する人々をかいくぐり、もめ事の見える
最前列を陣取る。目前にフライパンで血まみれの男に殴り掛かっている
コックの姿を捉え、コックも既に噛まれているらしく肩越しから流れる
大量の血でその白衣を赤く染めていた。当然コックはまだ噛まれる恐れが
あるので顔面を中心に殴打し続けている。血まみれの男の顔面は原型を
留めない程に損傷し骨まで砕かれ平らになってゆく様だった。殴られても
襲いかかる血まみれの男性は怯むどころかさらに力強い印象でコックに
掴み掛かって行き、コック共々床に倒れ込むとコックの喉元に
形跡すら無くなった口で喰らい付く。コックが叫ぶ。
顔を砕かれた男の、顔面の頭蓋骨の破片達が
コックの喉元で租借する歯のように蠢いていた。

これだ…。
今朝、消防士達が言っていた話の映像を目の当たりにした。
死体が襲いかかっているとは全く考え及ばない故に、噛まれて
即死状態でも動き出せば怪我人として介抱しているつもりで
襲われる悪循環も見えた。…最悪だ。
死人かそうでないかも全く解らないこの事態が
死者の蔓延を一気に広めた要因の一つなのだろう。
レスキューであっても、自衛隊が出動していたとしても
この悪循環は必ず起こりうる状況にも思えた。
確かに、これではひとたまりも無い。

男がなにか叫んでいる声がテレビから聞こえ始める。
映像ではぶよぶよと腹回りを太らせた全身黒ずんだ色の男が、
その肉を揺らしながら歩いて来る姿を捉えていて、
やがてレポーターらしき男の声も聞き取れるようになる。
「膨満です!! 膨満です!! 酷い臭いを発しながら、今、裸の変異体が
 ゆっくりとこちらへ移動しています!! 変異体と呼ぶにはあまりにも
 違和感があります!! これは死体です!! 間違いなく死体に見えます!!
 どこから現われたのでしょうか?こちらは頑丈な作りの
 セキュリティーマンションの一階ロビーです!! 防犯のしっかりした
 このマンションに街中を取材していた私たちも含め
 近所の住民共々こちらへ避難してロビーから外の様子を探っていた所、
 異様な臭いが充満し始めました!! 聞く所、変異体がエレベーターを
 使って降りて来た様です!! あ!! 今、変異体の臍辺りから液体が溢れ出て
 来ました!! これは相当な臭いです!! 変異体の体がみるみるうちに
 萎んで来ます!! 皆さん、危険です!! 注意して下さい!! ひとまず各部屋へ
 避難した方が良さそうです!! 私たちもどこか安全な場所へ!! 」

………………なんて映像だ。

次々と流される昨日の映像。安全な場所などありはしないのか?
また、なんたら大臣の映像に変わると、世界規模で起こっているこの
大惨事に緊急対策班を設け各地と連携して事態の収縮を図りたいと
言った口上。この映像は初めて見る。その時間帯は夕暮れを示していて
僕が騒がしい夜に遭遇し困惑していた時間だったと思う。現時点で、
政府は機能しているのだろうか?ライフラインこそまだ維持されては
いるものの事態の収縮に向けて着々と手を打ってくれていると
信じるしかない。

テレビ画面では無精髭を生やした疲れた表情の男が現われ
女子アナの隣りに座る。「次のVTRは先程局へ到着致しました
コチラの本田カメラマンが撮影しました。」 と女子アナ。
映像は、とある体育館への避難に同行したもので深夜2時頃のもの。
映像としては一番最近の様子だろうか。
「明かりの付いた体育館に辿り着いた時には中は既に血の海でした。
 体育館は厳重に扉が閉められていて
 中は閉じ込められた変異体で溢れかえっていました。」
映像にしたがってカメラマンが説明し始める。映像は体育館の
外側から中を映したもので木目の床は真っ赤に染まっていた。
カメラマン達に気が付いたやつらが撮影している体育館の扉の
窓ガラスにへばり着き始める。
「中からかろうじて逃げられた人に話を聞いた所、
 どうやら始まりは、寝たきりだった老人が亡くなったと確認された後に
 動きだし襲いかかり始めたという事でした。老人は外出も出来無く、
 家族と共にここに避難して来た時点では咬まれたはずも無いワケで、
 横たわっていただけなのに、ただ死してから発症し襲いかかったと
 みられます。その際に慌てて転んだり、病気や怪我等で体の自由の
 利かない人々に容赦なく次々と襲いかかり一瞬にして館内は
 血の海になった模様です。」

…このケースは河井の出くわしたであろう状況に似ていそうだ。
河井は消防士達に会えたのだろうか…。気にかかる。
避難もし終え、安心していたであろう矢先のこの状況は厄介だ。
こうなれば集団での行動は危険なのかもしれない。この事で、ただ死を
迎えただけでも化物になる事は明白になった。化物に襲われなくとも、
死が訪れると“人”は必ず“化物”になってしまうと言う事実。
…死はおとといまでの従来のその姿を本当に消してしまったんだ。

「海外からのニュースやインターネットの新聞社各ページの
 更新情報によりますと…」
再び女子アナが映し出され声に耳を傾ける。
「変異体への攻撃は、変異体の攻撃力をさらに強める危険な行為となる
 恐れがあり、世界各国で注意が促されている模様です。特に頭への
 攻撃は絶対にしないようにして下さい。頭を失った場合、より狂暴に
 なると言う情報も出ています。」
これも今朝聞いたニュースだ。これと言って新しい情報でもない…。
テレビ局に新聞各社も海外情報だよりなのだろうか。
スタッフの激減と情報収集の困難はどこも一緒なのかも知れない。
アナウンサーが報道しているのも唯一このチャンネルだけだ。
「続きまして、今しがたFAXが送られて来た情報です。」
これはなにか新しい情報ではないかと期待する。
「東京新塚駅構内に避難している当局関係スタッフから送られた
 FAXによりますと、駅構内に閉じ込められた避難者からの
 帰宅したいと言う要望が多く、野田急電鉄の運行区間で
 鉄道関係者が徐行で試運転を行った所、線路内には一切変異体の
 姿が見られず、踏切付近でも警報がなるとそれに反応して
 踏切内道路からは移動を始め、変異体との接触が全くないと
 言う事が分った為、帰宅したい方々の要望に対しての徐行運行を
 開始したとの事で、当番組ではその確認を急いでいます。」

…………!!!
なんだって?!
電車が動き始めただって?
まずい…この電車で父さんが帰って来そうだ!!
いや、母さんを心配している父さんは間違いなく帰って来る!!
まさか、線路内にはやつらが入っていないなんて思いもしなかった!!
何故だ?危険を察知しているのか?いや、危険を察知しているのなら
今朝映像で見た、銃口に挑んで行く姿の説明が付かない。
…だったら、これも習慣の成せる技なのか?
銃口を向けられる習慣性はそう経験無いだろうし…。

【線路内には入ってはならない。】
【踏切内は警報が鳴ったら速やかに移動。】
【警報が鳴り遮断機が降りたら渡らない。】

朗報でもあるが…僕にとっては大問題だ!!
いつのFAX情報だろうか?
新塚駅はから徐行運転でどのくらいだ?
通常の急行電車で50分はかかるとしても今は昼過ぎだ…
日が暮れるまでには父さんも帰って来そうだ!!
彼女をとりあえず僕の部屋に移動しよう。
テレビを消すと、リビングは外からの光が遮断された薄暗さへ戻った。
移動の際、足下が見えるようにとリビングの明かりを点け、
僕は寝室に寝かせている、のり巻き状の彼女の元へと急いだ。

移動時に噛まれないように彼女にTシャツの猿ぐつわを
再び嵌めると、やっぱり気が引けた。「…ごめん」
両腕でのり巻きを抱え込み持ち上げるとゆっくり歩き出す。
寝室を出てリビングをぬけ2階への階段まで続く廊下に出る。
このままの彼女を抱えた状態で通れるか左右を確認すると
左手の玄関脇で点滅する留守電に録音されている状態を知らせる
光が見えた。さっき帰って来た時は点滅していなかった筈。
…誰からだろう。音が出ないようにしていた為に受信には気が
付かなかった。もしかすると、父さんから?
…何事だろうかと彼女を一旦床に降ろし電話機に近づく。
受話器を取り耳に当て、まるでこけしのように立たされた
彼女を横目で確認しながら点滅している電話機のボタンを押す。

「ロクオンガ、イッケン、アリマス。サイセイシマス。」
機械のアナウンスが終わり、息をのむ。
「私だ、宏幸は、無事か?」
父さんだ…何かあったのか?
「とにかく…今、酒見原駅だ。
 仕事場の後輩が近くの駐車場に止めた車で帰宅を強行すると言う話に
 なり、酒見原駅が通り道だと解ったので、燃料の事もあり駅までなら
 と説得して、この駅まで送ってもらう事が出来た。もうすぐ帰る。
 待っていてくれ。」
そう言って通話は切れた。
電話機から録音された時間が告げられる。
「ゴゼン、11ジ、42フン、デス。」

…!!!!!!?
と言う事は、ついさっきじゃないか!!
その時間なら、もう……!!!
緊張が高まる。

ガツン!!!!

玄関の扉になにかがぶつかった音が響いた!!
あまりに間近で唐突だったので心拍数が上がり驚いてその場に座り込む。
なにかが、玄関の外にいる!!
やつらか?父さんか?

ガチャガチャン。

鍵の開けられた音。
玄関の扉が勢いよく開く。
途端にバイクのフルフェイスの黒いヘルメットが目に飛び込んで来た!!
扉が閉められ、玄関に現われたのは父さんだ!!
ゴルフのクラブを手に持ち、Yシャツを血飛沫で染め、肩で息をしていた。

「宏幸!! 良かった、無事か!!」
父さんは、目の前にいた座り込んだ僕の肩を
両腕で勢いよく掴み掛かると一瞬喜んだ表情を浮かべた。
そのまま僕の両肩を掴んだ手の力は強くなりはじめ、
今度は前後にと僕をユサユサと揺らし始めた。
「か…母さんは、どうした?! 戻ったか?!」

僕は揺らされるままに気が遠くなる。
やばい…頭がまっ白だ…!!
このタイミングで帰って来るとは…!!
てっきり電車で帰って来ると思い込んでいた!!

彼女…僕の後ろには…
彼女をこけしのよう立てて……
置いたまま………………………。



(続く)


第19章へ。
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