自作ゾンビ小説の草稿投稿中。
いらっしゃいませ。
自作のゾンビ物語の草稿を投稿中です。
予定では4日間の出来事として書いて
いますが3年も経つと言うのにようやく
3日目。それでもめげずにやって来れた
のは読んでくれる方がいらっしゃるから
こそと感謝しています。今後も感想なり
コメント頂けますと非常にやる気と
励みになります。宜しければ一言でも
添えて頂けますと嬉しいです。
自作ゾンビ物語。
[portrait of the dead]
めざせ!! ゾンビ小説家!!
ゾンビが好きすぎて自作のお話なんか
拵えております。なにぶん素人の
書く物語なので大目にみて下さい。
「ゾンビと暮らす。」(仮)→目次
めざせ!! ゾンビ小説家!!
ゾンビが好きすぎて自作のお話なんか
拵えております。なにぶん素人の
書く物語なので大目にみて下さい。
「ゾンビと暮らす。」(仮)→目次
プロフィール
HN:
南瓜金助 (みなみうりごんすけ)
HP:
性別:
男性
自己紹介:
別HNカボチャスキのお送りします
来た人だけが知っている秘密の部屋。
言うに洩れずホラー映画が好きです。
憧れの人はフック船長と芹沢博士に
スネーク・プリスキンとDr.ルーミス。
彼らに多大なる恩恵を授かりました。
来た人だけが知っている秘密の部屋。
言うに洩れずホラー映画が好きです。
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[portrait of the dead]
父親の書斎へ入りパソコンからの情報は無いかと電源を入れると
急にトイレに行きたくなった。ウチでは、母親がエコロジーと称し
ある程度たまらなければ小便は流さずに便座カバーを閉めるだけと言う
決めごとがあったので、昨日した僕の小便はそのまま残っていた。
用を済ますと何の気無しに水を流した。
ジャパ〜ゴボゴボゴボジョロジョロジョロ………
…!! …しまった!!
水流の音の大きさに驚いた。
この音はかなり響いているに違いない!
寝起きとは言え流してしまったのは迂闊すぎだ。
開けっ放しだったトイレの小窓を閉め、便座カバーも下ろすも既に
流し始めの音では無いのでそう変化はない…まずい。
貯水タンクへ流れ込む水量を調節するコックをひねり最少にすると
水の流れ落ちる音量は小さくなった。
どの程度の音が外に漏れるのかなんて気に留めた事も無かった。
些細な失敗が大きな惨劇になりかねない。特に音に関しては。
扉に水流注意と貼り紙をしておこうか。
やつらには聞かれていない事を祈ろう。
…これは厄介な問題だ。排泄は生きている限りついて回る。
トイレ使用禁止?壺かなんかにして裏の川へ捨てに行く?
周辺にやつらがいない事を確認してするようにするとか…
音がどれだけ洩れるのか調べようか…。あぁ…憂鬱になって来た。
エコロジーの観点からしてみれば、昨日1日の水道光熱費使用量は
格別に下がってはいるだろう…状態が望む望まずは別にして。
とりあえず、水が使えるのは確認出来た。
グ〜〜〜…。
体内がすっきりしたせいか腹の虫が鳴いた。
そう言えば昨日から何も食べていない。
しかし食べれば出るし食べなければ死んでしまうし…。
ダメだ、食べなくては。気持ちを切り替える。
何か簡単な食事は無いかとキッチンの脇の冷蔵庫の中を物色。
太い魚肉ソーゼージを見つけとりあえずかぶりつく。
母さんがよく長崎チャンポンの具材として使っていたっけ…。
もう食べられないのかと思ったら胸が苦しくなった。
キッチンの蛇口をひねりコップに水をつぐと飲み干した。
さらに痛み止めを薬箱から出し、もう一度水で流し込む。
ガスコンロも使えるか確認する。
つまみを回しカチチチチ…と音がする。
この程度の音なら大丈夫か?
ボッという音と共に青い炎が点火され、
ホッとするとその炎の温かさに冷えていた体が反応したのか
両手を翳し暖め、気を休めた途端に
ドドォォォォォォォォォン!!!
轟音が響いた。僕は驚いて身をすくめる。
閉め切った家の雨戸がガタガタガタンと振動する。爆発音だ。
何事かと慌ててコンロの火を消す。僕の家からの音ではない。
どこか近所で爆発が起きたのかも知れない。火を消し、
目の前の新聞紙の貼ってあるキッチンの窓を2cm程開けるが
その視界からは何も判らない。1階は雨戸が閉め切ってある上、
バリケードも作ってあるので外の様子は判らないだろうと、
ひとまず2階の自分の部屋の窓へ向かった。
もし近所の火災であったら危険極まりない。
自分の部屋に入ると学習机の上で充電中の携帯電話が受信の点滅を
繰り返していた。携帯を手に取り開くと河井からの返信が来ていた。
閉じ込められている体育館のある中学校は“青葉南中学”と
確認が出来た。誰かに伝えられるといいが…。
返信ボタンを押し「了解」と打ち送信。
携帯を手にしたまま窓に近づくとカーテンを少しずらす。
隣の幹久さんの家越しに辺りを見回す。煙が見えた。黒煙だ。
家の裏側に走るサイクリング道路のある川を隔てたとなり町の
民家の並ぶその屋根の先にモクモクと昇っている。
窓から外を眺めつつ、警察、消防共に電話をかけてみるが
繋がる気配は無く、携帯を机の上の充電器に戻し、
立ち昇る黒煙に視線を戻した。
川を挟んだ直線距離にして300mくらい先か?
生存者がいたのだろうか?
僕と同じようにガスの確認でもして?
…ガス漏れには気がつかなかったのか?
いや待て…まさか、朝、食事の支度をすると言う
習慣を繰り返したやつらがガス漏れに気が付かずに…?
ウチの周辺は都市ガスだけれど確か隣町はプロパンガスの世帯が
並んでいたはず。ウチまで火の粉は飛んで来る心配は無さそうだが
消火されなければ火事は周辺を飲み込み
大規模な火災へとなるのは目に見えている…。
自宅で避難している人がいるとすれば他人事でもないぞ。
それにこの事態が続くようならガスは危険視されすぐにでも
供給停止になるかも…。
そんな事を考えながら暫く立ち昇る黒煙を見ていると
どこからかサイレンの音が響き始めた。
ウ〜〜〜〜〜〜〜〜…
ピーポー、ピーポー…
イ〜シヤキ〜〜イモ〜〜〜オイモッ
消防車が来る!? サイレンは救急車のものも聞こえる。
しかも石焼き芋の呼び込みまで来る…??
兎に角、生存者がいる!!
しかもやつらが集まるのが必至のこの状況下で
消火活動と…芋を売っている人が?!!
明らかにやつらに出来る芸当ではない!!
ふとさっき見た河井のメールが思い出された。
あの人達に知らせる事が出来ればもしかすると
助けに行ってもらえるかも。
…どうする?
危険を冒してまで
伝えに行く事か…?
…伝えに行きたい。
友達や家族の死をこうも何度と思い知らされたこの事態に、
一人でも多く助かって欲しいと思う気持ちの方が強く現われる。
やつらが集まりきらないうちに現場まで辿り着けばいいんだ。
携帯電話をジャージーのズボンのポケットに突っ込み、
壁にかけてあったジャンバーに袖を通すと階段を下り、
玄関を飛び出していた。
…が、足下の石畳に見えた大量の乾いた血が僕の足を止めた。
恐怖を感じる。
このまま飛び出してはまずい。
やつらには会いたくはないぞ…。
彼女を連れて来た時の事を思い出す。…足は彼女の元へ。
両親の寝室を覗くと、布団で巻かれた状態でベッドと壁に挟まれ
身動き取れなくなった彼女ののり巻きから飛び出している
ふくらはぎから下の足が、モゾモゾともがいているのが見えた。
寝室のドアを閉め、扉の前にソファーをずらし、
閂代わりにしていたバットを見つけ拾い上げる。
巻き付けてあったガムテープを無造作に引き剥がすと
バットを左手にしっかりと握りしめた。
外国では攻撃禁止命令が出されているが万が一の時は戦うしか無いだろ?
昨日から脱ぎっぱなしで忘れていたリビングの角に放られた
学校の制服のズボンから、家の鍵を取り出す。
やつらが入って来られない様に鍵は必ず締めた方がいい。
玄関の、母さんがまき散らしたであろう血が、
僕に慎重さを取り戻させた。
「行ってくる、母さん。」
玄関を出ると正面の通りは避け、裏のサイクリング道路から
進もうと家の脇の人一人通れるくらいの狭い空間を通り裏に向かった。
隣の五十嵐さん夫婦宅からは垣根代わりの植木が
僕の家の敷地にまで枝を伸ばしていて、それをくぐり抜けるように進む。
今年はまだ枝を剪定していない様だ。雑草も家を囲むように延び放題で
五十嵐さん宅はまるで誰も住んでいないような家に見えた。
そう言えば、最近ご夫婦の姿を見ていなかった気がする。
無事だといい…。
家の裏に設置されたサイクリング道路とを隔てるフェンスが
目の前に見える。家の脇から裏へ慎重に抜け出ると
サイクリング道路を見渡した。
10m程先に一体初老の男性の後ろ姿が見える。
動きと血まみれの姿からやつらだと判る。
いま朝の6時くらいだろうか?
こんな早朝にサイクリング道路にいるのはジョギングの習慣から?
どうやらあの黒煙へ向かっている様だ。なぜ?火事場の見物?
サイレンの音に引かれて?…ふと、気が付く。
今あそこにやつが歩いているって事は、もしかすると
さっきトイレを流した時近くにいたのかも知れない…。
爆発音に命拾いしたのかと思うと背筋が寒くなった。
サイレンに石焼き芋の音は近い。そして遠い。
一ヶ所に集まらずに分散して聞こえ始めた。
ジョギング習慣のやつらがいるのだとするとサイクリング道路には
確実にまだ大勢いそうだ。フェンスを乗り越えサイクリング道路へ出るも
危険を避けるためそのまま道路を進まずに、サイクリング道路を横切り
向かいのフェンスをさらに乗り越えて、河川整備されている川の土手へ
下り、移動する事にした。フェンスを登ろうと腕の筋肉に力を入れると
痛みが走る。薬を飲んだとは言え、激しい運動は厳しいようだ…。
降りたフェンスの真下はサイクリング道路からは2mくらいの落差がある
コンクリートの壁が続いている。覗き込まない限りは反対側からしか
見られる事は無い。
足下の雑草をバットで分けながら、
草のこすれる音に注意しつつ慎重に移動。
目の前に見える川を渡る橋までは200m程だ。
川内には注意を払わなかったが、ふと川縁を見下ろすと
橋の更に100m先から川の中を進みやつらが3体こっちへ
向かって来ているのが見えた。安心だと思い油断していたぞ…危ない。
そう言えば橋の少し先にはサイクリング道路から階段で降りられる
川縁の広場があり、よく川に入って遊んでいる子供たちや
釣りをして楽しんでいる人を見かけた事があった。
そこから降りてしまい黒煙をめざしていてもおかしくはない。
橋の下まで辿り着くと2m程のコンクリートの壁の上に手をかけ
頭上のフェンスの下の隙間から視線を送りサイクリング道路内と
橋の上の様子を見る。まずい…橋の上にも4体うろついている。
当然か。この周辺にいたやつらが黒煙へ向かうならこの橋を渡って
向こう岸のへと進むだろう。川の中からの3体いるやつらも
丸見えの僕に気が付いたようで徐々にこちらへ近づいて来ていた。
その距離50m先…早くコンクリート塀を昇り橋を渡らないと。
…どうする!?
ホッカホッカノオイモダヨ〜、オイシイオイシイオイモダヨ〜
イ〜シヤ〜キ〜〜イモ〜オ〜、オイモッ
石焼き芋の呼び込みが近づいて来ていた。
どうやらこの橋を向こう岸からこちらへ渡っているようだ。
呼び込みはだんだんユックリと近づき、僕の目にも
焼き芋屋の軽トラックが見て取れた。
運転手は消防所の制服を着ている男性だ。
そうかサイレンの音が分散して聞こえたのはやつらを
誘導している車両があったせいだ。石焼き芋もその一つ。
その方が消火活動がはかどるのだろう。
かろうじてやつらに追いつかれなさそうなゆっくりした速度を保って
隠れて道路上を覗き込み見ている僕の目の前を通過した。
そう、その後にやつらを10体ほど従えて。
焼き芋屋の車に群がる集団の中には本気で石焼き芋を追っていそうな
やつもいるかも知れない…そう思うと妙な微笑ましさを呼んだが
軽トラックの進む先のやつらは点々と立ちふさがり進行を妨げ始めた。
そのまま進んだらやつらを轢いてしまうと思って見ていると
ハンドル捌きにブレーキ、アクセルを巧みに使い速度をコントロールして
やつらを絶妙に車にぶつけ道路脇によろめかせそのスキを巧く縫って
進んでみせた。この程度の集まりなら可能な技とは思えたが
その手際の良さに驚かされた。軽トラックが橋を去った後、
見事にやつらの姿は僕の視界から消え失せていた。
川中を進むやつらは僕の20m程先。間に合った!! これはチャンス!!
僕は2m程のコンクリートの壁をよじ登り土手から出ると
痛む脹ら脛に堪えサイクリング道路を進み、橋を一気に駆け渡り、
その先の十字路へ出た。左手には黒煙に白煙をまぜた状態に変わった
煙が見え、煙の中では消火活動の水が1本だがアーチを描いていた。
その水をたどると消防車が一台、確認出来た。
すごいぞ。人に会える。助けを告げられる。
やつらの姿は今の所見当たらない。目の前の火災現場まで
一気に走り抜けられそうだ。念のためバットはすぐ構えられるように
グリップの部分を右手で握った。
消防士は3人。1人はホースを構え消火活動中、
もう1人はその背後から周辺の様子を見回し放水をサポートし、
残る1人は2人からは10m程離れた場所で道路全体を注意深く監視し
消火を指示していた。
「オーイ!!!」
僕は喜びからか、大きな声をかけながら手を振り歩み寄ると
指示役の消防士が僕に気が付いて、消火活動中の男に僕を知らせると
僕に消火ホースのノズルが向けられた!!! しまった!! 間違えている?
「ち、ちちち、違います!! 僕、やつらじゃ…!!!」
僕に向かってホースから届いた水の矢は、僕の右側をすり抜け、
僕の後ろ6m程先に居たやつらの一人を射抜き、弾き飛ばしていた。
「気を付けろ!! 少年!! この辺は目立つ!! 隠れていなさい!!」
再び水は鎮火しつつある炎へ向けられた。
僕は指示役の消防士に歩み寄り声をかける。
「と…友達が、危ないんです!! 閉じ込められて、逃げ場が無くて!!」
「どこで?!」 消防士が切り返す。
「青葉南中学の 体育館の2階です!!」
「それを言いにここまで来たのか!?」「はい。」
「解った、後で確認しよう。」「あ…ありがとうございます。」
良かった!! 河井の事は伝えられた!! 何も出来なかったもどかしい靄が
少しだけ晴れた。鎮火しつつある火災現場に目をやると
白煙を上げ始めた煙の隙間から焼け焦げた木材の骨組みが露に
なりなじめた。屋根は落ち、家の奥の部分はかろうじて壁を残す。
「来ます!!」放水係が指示役に叫ぶ。「解った…」
なんだ?何が来るんだ?目を凝らし火災現場を見る。
黒い物体が動いているのが見える。人の形?
まさかまさかまさか!!…やつらだ!!
焼けこげ、所々に炎をまとい、真っ黒になりながらも、
やつらの一体が火事になった家の玄関があったであろう場所から
這い出て来て、そして立ち上がった!!
「少年、周りを見張っていてくれ!!」「え?!」
僕と話していた指示役の消防士がやつに近づく。
やつは焦げてひび割れささくれ立った様な黒い両腕を
消防士に向けて延ばすと消防士は腕を避け屈み、
そいつの両足を蹴り上げると転倒させ、
うつ伏せにして覆い被さり押さえ込んだ。
「少年!! 周りを見ていてくれ!!」 「は…はい!!」
うっかり見入っていた僕は慌てて周辺を見渡す。
さっき、僕の後ろで水をかけられたやつが近づいて来ていた。
「こ…こっちにいます…!!」 無我夢中で叫ぶ。
ホースのノズルがやつに向けられ、
水の矢はまたやつを射抜き10m程すっ飛ばした。
「頼むぞ、少年。」 放水係が念を押す。「は…はい。」
逞しい消防士達の姿に感動していた。
彼らがいればこの辺はきっと守られると高揚した。
気が付けば炎は見えず鎮火している様だ。黒こげのやつはいつのまにか
近くの電柱にシーツの様な大きな布で例ののり巻きのように巻かれ
縛り付けられていて、3人の消防士は手際良く装備を片付けていた。
…のり巻きは有効な手段なのかもしれない。
「立ち話もなんだ、車に乗ってくれ。」
そう言われるまま僕は6人乗れそうな消防車の後ろ座席にに乗り込んだ。
消防車はゆっくり走り出し、カンカン、カンカンと鐘を響かせながら
火事現場周辺を徘徊し始めた。あれだけの数を
誘導しているにも関わらず、やつらがまだ所々点在していて
消防車に近づこうとしている。
どれだけの人間が死に動き出したのだろうか…見当もつかない。
辺りを徘徊していた音、サイレンに石焼芋が止むと鐘の音も止まった。
「少年、どこから来た?避難所はどこだ?」
サポート役の消防士が運転手で僕に聞いて来た。
「避難はしていません。あの…か…彼女と…家族の帰りを
待っていて…家に…閉じこもっています…。」
「そうか、それなら近所か。少し見回ってから送って行くが…いいか?」
「はい…。」筋肉痛には有り難い。
また土手沿いには進めそうも無かったし…。
「友達はそれから調べに行く。」
僕の隣に乗り込んだ指示役の消防士が話しかける。
「あ、ありがとうございます…助かるといいです。
消防士さん達に会えて、とても良かったです。」
彼女が実は死んでいる事実に嘘をついた様な緊張を感じたせいか、
少し会話がぎこちなくなってしまった。
「こんな状況でも火事は起きる…ならば消火だ。
火の見やぐらで一晩中監視している。」
「黒こげになってもやつら、襲って来るんですね。驚きました。」
「今だに信じられない…が、それが我々の目の前にある現実だ。
…ならば疑わずに対応するのが望ましい。」「…はい。」
「少年、そのバットで、何体か倒したのか?」
放水係だった消防士が前の席から僕の方を見ずに話しかける。
「…いいえ、今の所よけきれているから、
まだ使っていません。念の為です。」
「そうか、なら一つ教えておく。重要な事だ。」
指示役の消防士は真剣な顔つきで僕を睨むとこう告げた。
「やつらは頭を攻撃してはダメだ。」
驚きの助言だった。
「そ、そうなんですか!? そんな話、知りませんでした…!!
噛み付いてくるし、頭は真っ先に攻撃したくなりそうですけど…。」
「仲間の間じゃ、定説だ。昨日、やつらが一気に蔓延したのも
頭を攻撃したからではないかと言われている。
やつら、脳にダメージを受けると、より狂暴になる。」
「…ほ、本当ですか?」「あぁ、救助活動の時、実際見て来た。」
「この辺じゃ、あまり見かけないが、繁華街のデパートやビル街は
攻防が激しく、それこそ喰われまいと頭を攻撃していた。
頭をつぶされ、噛み付く術を失ったやつらはどうしたと思う?
死を蔓延させる事が絶対的な使命の如く、より狂暴に全身を使って
攻撃して来た…あるものは人間の顔に、自分のつぶされた
血まみれの顔を力ずくで押し付け窒息死させたり、
またあるものは両手で首を絞めあげ喉笛を掴み引き千切ったり…
背後から捕まえられた人間は、腹にくい込んできたやつらの指で
じょじょに腹を裂かれ、はらわたを地面にぶちまけてしまっていた…
あの強靭な力はこの為でもあるのかも知れない。
折れて突き出た自分の骨を突き刺して来る奴もいた。
…足先を失ったやつは人間の口に血まみれの踝をねじ込んで来る。」
惨いと一言では語れない聞かされた惨状は僕の想像を絶していた。
「一番驚いたのは単体で動く筈無いと思われた、
喰いちぎられ放られたであろう腕や足が、蛇や山蛭のように蠢き、
ハイエナのように群がって束で、倒れたり身動き出来なくなった人に
襲いかかっていったのを見た時だ…。
そいつらの千切り離されたであろう傷口は、
あたかもそこに口が存在しているかのように人間にくっ付く。
無理に引き剥がせばくっ付いていた部分からは大量の出血…
何が起きているのか見るからにまったく訳が分からないが
くっ付かれた人間は次第に動かなくなり絶命すると
それをくっ付けたままやつらの仲間入りだ…信じられるか?」
なんて事だ…想像を絶しすぎていて絶句する。
人の多い繁華街ならではの珍事だろうか…。
まだ、そんな状態のやつを見た事は無いが会いたくはない…。
「やつらは止まらない、何をしても止まらないんだ!!」
村瀬の言った言葉の意味が分かった様な気がした。…死が攻撃してくる。
朝見たTVの銃撃の映像…頭を撃たれたやつらが勢いを増して見えたのは、
増していたからだ。酷い…繁華街やデパートに生存者はいるのだろうか?
「繁華街で救出作業に関わってかろうじて何人かを避難所へ搬送したあと、
再び繁華街へ戻ろうとしたが、たった数十分の間に増えてしまった
やつら数に圧倒され、二度と繁華街へは近づけなかった…。」
繁華街からその狂暴なやつらが溢れ出て来ないのなら、
もしかすると生存者がいて攻防を繰り返しているからかも知れない。
「だから、頭は攻撃するな。脳はそのままにしておけ。
脳があれば攻撃はして来ても、行動にはかろうじて人間らしさが見え
まだ大人しい。…バラバラなんてのはもっての他だ」
「脳があれば死者…無くなれば即、危害だ。」
消防士達が口々に言う。
「解りました…。」
やはり、昨日思った通り…
噛み付く事が出来なくなった場合の攻撃力も備えていた。
必然だろう…。とは言え、人間らしさを残して見えると言う事は、
ただ滅亡へと追いやる為の死を蔓延させる事とは
やはりどこかずれていると感じた。誇示?見せしめ?何の為の?
はっきりしている事は一つ。人の死がそこに在る…。
人の、死の、主張。やはりそこにおののく。
昨日彼女と一緒に過ごして気が付いた事実に、
やつらの言葉を聞いた気がした。
きっと彼女の失った腕も…どこかで誰かを襲っている。
見つけ出して くっ付ける所の話では無くなっていた。
そうか、これが攻撃禁止命令の真意かもしれない。
TVの報道で扱われるとすればきっとこれからなのだろう。
誰が信じる?腕や足だけが襲いかかるなんて…。
それだけ事実を伝えられる人員も少なく、
情報が錯綜していると言う事に違いない。
再び消防車は火災現場に戻っていた。
「少年、家はどこだ?送って行く。」
「さっき見えた橋を渡って右200m先くらいです。」
「了解。」運転手は消防車をUターンさせる。
指示役だった消防士がメモを書き出し僕に渡した。
「自分の携帯番号だ。かかるか判らないが必要なら連絡を。」
それを聞いた放水係が口を挟む。「のろしを上げるのが一番早い。」
冗談のつもりだったのか、僕は笑っていいのか判らなかったが
少しだけ微笑んだ。消防車が橋を渡ると僕は家の場所を告げ、
家の玄関前まで送ってもらう。「ありがとうございました。」
渡されたメモはズボンのポケットにしまい消防車から降りる準備をする。
「気を付けるんだぞ。家族が無事帰ってくる事を祈る。」
「…あ、は…はい。」
父親が帰ってくるのが本当はまずいと思うとしどろもどろになる。
「守ってやれよ、彼女。」「はい。」
これは素直に答えた。辺りにやつらがいないのを確認し車のドアを開けて
消防車から降りようとすると、異様な臭いが車内に漂って来た。
何の臭いだ?形容し難い、鼻に突き刺さる様な痛い臭い…。
消防士達が言う。
「まさか、そんな事までありうるのか?…この臭い…考えすぎか?」
「いや…用心しろ。この状況下では可能性はある…危険だ…どこからだ?」
「少年、ドアを閉めろ、急げ」
「はい…」僕は言われた通りドアを閉めた。
消防士は告げる。
「これは、死の臭いだ…」
(続く)
→第17章へ。
☆投稿後記☆
予定では3日目に家を出る予定でしたが
別件で今回出てしまいました(笑) 何があるか判りませんねぇ。
え〜っと、今回は好みがはっきり分かれてしまうでしょうね。
だって、トンでもない造形のやつが現われますから(笑)
バラバラのやつをどうにかして攻撃力にしたかったのですが
結果こんな事に(笑)
それと、消防活動の件は縁が無いのでまるっきり想像です。
なにか変な描写がありましたらこっそりメールフォームで教えて下さい。
次回はもっと個人的に出したいゾンビが出て来ます。
あれですよ、あれ。最も衝撃的で私の一番好きな謎で驚愕的なアイツ!!
そんなワケで次回も個人的趣味からですが5月下旬予定です。
それでは、また♪
[portrait of the dead]
父親の書斎へ入りパソコンからの情報は無いかと電源を入れると
急にトイレに行きたくなった。ウチでは、母親がエコロジーと称し
ある程度たまらなければ小便は流さずに便座カバーを閉めるだけと言う
決めごとがあったので、昨日した僕の小便はそのまま残っていた。
用を済ますと何の気無しに水を流した。
ジャパ〜ゴボゴボゴボジョロジョロジョロ………
…!! …しまった!!
水流の音の大きさに驚いた。
この音はかなり響いているに違いない!
寝起きとは言え流してしまったのは迂闊すぎだ。
開けっ放しだったトイレの小窓を閉め、便座カバーも下ろすも既に
流し始めの音では無いのでそう変化はない…まずい。
貯水タンクへ流れ込む水量を調節するコックをひねり最少にすると
水の流れ落ちる音量は小さくなった。
どの程度の音が外に漏れるのかなんて気に留めた事も無かった。
些細な失敗が大きな惨劇になりかねない。特に音に関しては。
扉に水流注意と貼り紙をしておこうか。
やつらには聞かれていない事を祈ろう。
…これは厄介な問題だ。排泄は生きている限りついて回る。
トイレ使用禁止?壺かなんかにして裏の川へ捨てに行く?
周辺にやつらがいない事を確認してするようにするとか…
音がどれだけ洩れるのか調べようか…。あぁ…憂鬱になって来た。
エコロジーの観点からしてみれば、昨日1日の水道光熱費使用量は
格別に下がってはいるだろう…状態が望む望まずは別にして。
とりあえず、水が使えるのは確認出来た。
グ〜〜〜…。
体内がすっきりしたせいか腹の虫が鳴いた。
そう言えば昨日から何も食べていない。
しかし食べれば出るし食べなければ死んでしまうし…。
ダメだ、食べなくては。気持ちを切り替える。
何か簡単な食事は無いかとキッチンの脇の冷蔵庫の中を物色。
太い魚肉ソーゼージを見つけとりあえずかぶりつく。
母さんがよく長崎チャンポンの具材として使っていたっけ…。
もう食べられないのかと思ったら胸が苦しくなった。
キッチンの蛇口をひねりコップに水をつぐと飲み干した。
さらに痛み止めを薬箱から出し、もう一度水で流し込む。
ガスコンロも使えるか確認する。
つまみを回しカチチチチ…と音がする。
この程度の音なら大丈夫か?
ボッという音と共に青い炎が点火され、
ホッとするとその炎の温かさに冷えていた体が反応したのか
両手を翳し暖め、気を休めた途端に
ドドォォォォォォォォォン!!!
轟音が響いた。僕は驚いて身をすくめる。
閉め切った家の雨戸がガタガタガタンと振動する。爆発音だ。
何事かと慌ててコンロの火を消す。僕の家からの音ではない。
どこか近所で爆発が起きたのかも知れない。火を消し、
目の前の新聞紙の貼ってあるキッチンの窓を2cm程開けるが
その視界からは何も判らない。1階は雨戸が閉め切ってある上、
バリケードも作ってあるので外の様子は判らないだろうと、
ひとまず2階の自分の部屋の窓へ向かった。
もし近所の火災であったら危険極まりない。
自分の部屋に入ると学習机の上で充電中の携帯電話が受信の点滅を
繰り返していた。携帯を手に取り開くと河井からの返信が来ていた。
閉じ込められている体育館のある中学校は“青葉南中学”と
確認が出来た。誰かに伝えられるといいが…。
返信ボタンを押し「了解」と打ち送信。
携帯を手にしたまま窓に近づくとカーテンを少しずらす。
隣の幹久さんの家越しに辺りを見回す。煙が見えた。黒煙だ。
家の裏側に走るサイクリング道路のある川を隔てたとなり町の
民家の並ぶその屋根の先にモクモクと昇っている。
窓から外を眺めつつ、警察、消防共に電話をかけてみるが
繋がる気配は無く、携帯を机の上の充電器に戻し、
立ち昇る黒煙に視線を戻した。
川を挟んだ直線距離にして300mくらい先か?
生存者がいたのだろうか?
僕と同じようにガスの確認でもして?
…ガス漏れには気がつかなかったのか?
いや待て…まさか、朝、食事の支度をすると言う
習慣を繰り返したやつらがガス漏れに気が付かずに…?
ウチの周辺は都市ガスだけれど確か隣町はプロパンガスの世帯が
並んでいたはず。ウチまで火の粉は飛んで来る心配は無さそうだが
消火されなければ火事は周辺を飲み込み
大規模な火災へとなるのは目に見えている…。
自宅で避難している人がいるとすれば他人事でもないぞ。
それにこの事態が続くようならガスは危険視されすぐにでも
供給停止になるかも…。
そんな事を考えながら暫く立ち昇る黒煙を見ていると
どこからかサイレンの音が響き始めた。
ウ〜〜〜〜〜〜〜〜…
ピーポー、ピーポー…
イ〜シヤキ〜〜イモ〜〜〜オイモッ
消防車が来る!? サイレンは救急車のものも聞こえる。
しかも石焼き芋の呼び込みまで来る…??
兎に角、生存者がいる!!
しかもやつらが集まるのが必至のこの状況下で
消火活動と…芋を売っている人が?!!
明らかにやつらに出来る芸当ではない!!
ふとさっき見た河井のメールが思い出された。
あの人達に知らせる事が出来ればもしかすると
助けに行ってもらえるかも。
…どうする?
危険を冒してまで
伝えに行く事か…?
…伝えに行きたい。
友達や家族の死をこうも何度と思い知らされたこの事態に、
一人でも多く助かって欲しいと思う気持ちの方が強く現われる。
やつらが集まりきらないうちに現場まで辿り着けばいいんだ。
携帯電話をジャージーのズボンのポケットに突っ込み、
壁にかけてあったジャンバーに袖を通すと階段を下り、
玄関を飛び出していた。
…が、足下の石畳に見えた大量の乾いた血が僕の足を止めた。
恐怖を感じる。
このまま飛び出してはまずい。
やつらには会いたくはないぞ…。
彼女を連れて来た時の事を思い出す。…足は彼女の元へ。
両親の寝室を覗くと、布団で巻かれた状態でベッドと壁に挟まれ
身動き取れなくなった彼女ののり巻きから飛び出している
ふくらはぎから下の足が、モゾモゾともがいているのが見えた。
寝室のドアを閉め、扉の前にソファーをずらし、
閂代わりにしていたバットを見つけ拾い上げる。
巻き付けてあったガムテープを無造作に引き剥がすと
バットを左手にしっかりと握りしめた。
外国では攻撃禁止命令が出されているが万が一の時は戦うしか無いだろ?
昨日から脱ぎっぱなしで忘れていたリビングの角に放られた
学校の制服のズボンから、家の鍵を取り出す。
やつらが入って来られない様に鍵は必ず締めた方がいい。
玄関の、母さんがまき散らしたであろう血が、
僕に慎重さを取り戻させた。
「行ってくる、母さん。」
玄関を出ると正面の通りは避け、裏のサイクリング道路から
進もうと家の脇の人一人通れるくらいの狭い空間を通り裏に向かった。
隣の五十嵐さん夫婦宅からは垣根代わりの植木が
僕の家の敷地にまで枝を伸ばしていて、それをくぐり抜けるように進む。
今年はまだ枝を剪定していない様だ。雑草も家を囲むように延び放題で
五十嵐さん宅はまるで誰も住んでいないような家に見えた。
そう言えば、最近ご夫婦の姿を見ていなかった気がする。
無事だといい…。
家の裏に設置されたサイクリング道路とを隔てるフェンスが
目の前に見える。家の脇から裏へ慎重に抜け出ると
サイクリング道路を見渡した。
10m程先に一体初老の男性の後ろ姿が見える。
動きと血まみれの姿からやつらだと判る。
いま朝の6時くらいだろうか?
こんな早朝にサイクリング道路にいるのはジョギングの習慣から?
どうやらあの黒煙へ向かっている様だ。なぜ?火事場の見物?
サイレンの音に引かれて?…ふと、気が付く。
今あそこにやつが歩いているって事は、もしかすると
さっきトイレを流した時近くにいたのかも知れない…。
爆発音に命拾いしたのかと思うと背筋が寒くなった。
サイレンに石焼き芋の音は近い。そして遠い。
一ヶ所に集まらずに分散して聞こえ始めた。
ジョギング習慣のやつらがいるのだとするとサイクリング道路には
確実にまだ大勢いそうだ。フェンスを乗り越えサイクリング道路へ出るも
危険を避けるためそのまま道路を進まずに、サイクリング道路を横切り
向かいのフェンスをさらに乗り越えて、河川整備されている川の土手へ
下り、移動する事にした。フェンスを登ろうと腕の筋肉に力を入れると
痛みが走る。薬を飲んだとは言え、激しい運動は厳しいようだ…。
降りたフェンスの真下はサイクリング道路からは2mくらいの落差がある
コンクリートの壁が続いている。覗き込まない限りは反対側からしか
見られる事は無い。
足下の雑草をバットで分けながら、
草のこすれる音に注意しつつ慎重に移動。
目の前に見える川を渡る橋までは200m程だ。
川内には注意を払わなかったが、ふと川縁を見下ろすと
橋の更に100m先から川の中を進みやつらが3体こっちへ
向かって来ているのが見えた。安心だと思い油断していたぞ…危ない。
そう言えば橋の少し先にはサイクリング道路から階段で降りられる
川縁の広場があり、よく川に入って遊んでいる子供たちや
釣りをして楽しんでいる人を見かけた事があった。
そこから降りてしまい黒煙をめざしていてもおかしくはない。
橋の下まで辿り着くと2m程のコンクリートの壁の上に手をかけ
頭上のフェンスの下の隙間から視線を送りサイクリング道路内と
橋の上の様子を見る。まずい…橋の上にも4体うろついている。
当然か。この周辺にいたやつらが黒煙へ向かうならこの橋を渡って
向こう岸のへと進むだろう。川の中からの3体いるやつらも
丸見えの僕に気が付いたようで徐々にこちらへ近づいて来ていた。
その距離50m先…早くコンクリート塀を昇り橋を渡らないと。
…どうする!?
ホッカホッカノオイモダヨ〜、オイシイオイシイオイモダヨ〜
イ〜シヤ〜キ〜〜イモ〜オ〜、オイモッ
石焼き芋の呼び込みが近づいて来ていた。
どうやらこの橋を向こう岸からこちらへ渡っているようだ。
呼び込みはだんだんユックリと近づき、僕の目にも
焼き芋屋の軽トラックが見て取れた。
運転手は消防所の制服を着ている男性だ。
そうかサイレンの音が分散して聞こえたのはやつらを
誘導している車両があったせいだ。石焼き芋もその一つ。
その方が消火活動がはかどるのだろう。
かろうじてやつらに追いつかれなさそうなゆっくりした速度を保って
隠れて道路上を覗き込み見ている僕の目の前を通過した。
そう、その後にやつらを10体ほど従えて。
焼き芋屋の車に群がる集団の中には本気で石焼き芋を追っていそうな
やつもいるかも知れない…そう思うと妙な微笑ましさを呼んだが
軽トラックの進む先のやつらは点々と立ちふさがり進行を妨げ始めた。
そのまま進んだらやつらを轢いてしまうと思って見ていると
ハンドル捌きにブレーキ、アクセルを巧みに使い速度をコントロールして
やつらを絶妙に車にぶつけ道路脇によろめかせそのスキを巧く縫って
進んでみせた。この程度の集まりなら可能な技とは思えたが
その手際の良さに驚かされた。軽トラックが橋を去った後、
見事にやつらの姿は僕の視界から消え失せていた。
川中を進むやつらは僕の20m程先。間に合った!! これはチャンス!!
僕は2m程のコンクリートの壁をよじ登り土手から出ると
痛む脹ら脛に堪えサイクリング道路を進み、橋を一気に駆け渡り、
その先の十字路へ出た。左手には黒煙に白煙をまぜた状態に変わった
煙が見え、煙の中では消火活動の水が1本だがアーチを描いていた。
その水をたどると消防車が一台、確認出来た。
すごいぞ。人に会える。助けを告げられる。
やつらの姿は今の所見当たらない。目の前の火災現場まで
一気に走り抜けられそうだ。念のためバットはすぐ構えられるように
グリップの部分を右手で握った。
消防士は3人。1人はホースを構え消火活動中、
もう1人はその背後から周辺の様子を見回し放水をサポートし、
残る1人は2人からは10m程離れた場所で道路全体を注意深く監視し
消火を指示していた。
「オーイ!!!」
僕は喜びからか、大きな声をかけながら手を振り歩み寄ると
指示役の消防士が僕に気が付いて、消火活動中の男に僕を知らせると
僕に消火ホースのノズルが向けられた!!! しまった!! 間違えている?
「ち、ちちち、違います!! 僕、やつらじゃ…!!!」
僕に向かってホースから届いた水の矢は、僕の右側をすり抜け、
僕の後ろ6m程先に居たやつらの一人を射抜き、弾き飛ばしていた。
「気を付けろ!! 少年!! この辺は目立つ!! 隠れていなさい!!」
再び水は鎮火しつつある炎へ向けられた。
僕は指示役の消防士に歩み寄り声をかける。
「と…友達が、危ないんです!! 閉じ込められて、逃げ場が無くて!!」
「どこで?!」 消防士が切り返す。
「青葉南中学の 体育館の2階です!!」
「それを言いにここまで来たのか!?」「はい。」
「解った、後で確認しよう。」「あ…ありがとうございます。」
良かった!! 河井の事は伝えられた!! 何も出来なかったもどかしい靄が
少しだけ晴れた。鎮火しつつある火災現場に目をやると
白煙を上げ始めた煙の隙間から焼け焦げた木材の骨組みが露に
なりなじめた。屋根は落ち、家の奥の部分はかろうじて壁を残す。
「来ます!!」放水係が指示役に叫ぶ。「解った…」
なんだ?何が来るんだ?目を凝らし火災現場を見る。
黒い物体が動いているのが見える。人の形?
まさかまさかまさか!!…やつらだ!!
焼けこげ、所々に炎をまとい、真っ黒になりながらも、
やつらの一体が火事になった家の玄関があったであろう場所から
這い出て来て、そして立ち上がった!!
「少年、周りを見張っていてくれ!!」「え?!」
僕と話していた指示役の消防士がやつに近づく。
やつは焦げてひび割れささくれ立った様な黒い両腕を
消防士に向けて延ばすと消防士は腕を避け屈み、
そいつの両足を蹴り上げると転倒させ、
うつ伏せにして覆い被さり押さえ込んだ。
「少年!! 周りを見ていてくれ!!」 「は…はい!!」
うっかり見入っていた僕は慌てて周辺を見渡す。
さっき、僕の後ろで水をかけられたやつが近づいて来ていた。
「こ…こっちにいます…!!」 無我夢中で叫ぶ。
ホースのノズルがやつに向けられ、
水の矢はまたやつを射抜き10m程すっ飛ばした。
「頼むぞ、少年。」 放水係が念を押す。「は…はい。」
逞しい消防士達の姿に感動していた。
彼らがいればこの辺はきっと守られると高揚した。
気が付けば炎は見えず鎮火している様だ。黒こげのやつはいつのまにか
近くの電柱にシーツの様な大きな布で例ののり巻きのように巻かれ
縛り付けられていて、3人の消防士は手際良く装備を片付けていた。
…のり巻きは有効な手段なのかもしれない。
「立ち話もなんだ、車に乗ってくれ。」
そう言われるまま僕は6人乗れそうな消防車の後ろ座席にに乗り込んだ。
消防車はゆっくり走り出し、カンカン、カンカンと鐘を響かせながら
火事現場周辺を徘徊し始めた。あれだけの数を
誘導しているにも関わらず、やつらがまだ所々点在していて
消防車に近づこうとしている。
どれだけの人間が死に動き出したのだろうか…見当もつかない。
辺りを徘徊していた音、サイレンに石焼芋が止むと鐘の音も止まった。
「少年、どこから来た?避難所はどこだ?」
サポート役の消防士が運転手で僕に聞いて来た。
「避難はしていません。あの…か…彼女と…家族の帰りを
待っていて…家に…閉じこもっています…。」
「そうか、それなら近所か。少し見回ってから送って行くが…いいか?」
「はい…。」筋肉痛には有り難い。
また土手沿いには進めそうも無かったし…。
「友達はそれから調べに行く。」
僕の隣に乗り込んだ指示役の消防士が話しかける。
「あ、ありがとうございます…助かるといいです。
消防士さん達に会えて、とても良かったです。」
彼女が実は死んでいる事実に嘘をついた様な緊張を感じたせいか、
少し会話がぎこちなくなってしまった。
「こんな状況でも火事は起きる…ならば消火だ。
火の見やぐらで一晩中監視している。」
「黒こげになってもやつら、襲って来るんですね。驚きました。」
「今だに信じられない…が、それが我々の目の前にある現実だ。
…ならば疑わずに対応するのが望ましい。」「…はい。」
「少年、そのバットで、何体か倒したのか?」
放水係だった消防士が前の席から僕の方を見ずに話しかける。
「…いいえ、今の所よけきれているから、
まだ使っていません。念の為です。」
「そうか、なら一つ教えておく。重要な事だ。」
指示役の消防士は真剣な顔つきで僕を睨むとこう告げた。
「やつらは頭を攻撃してはダメだ。」
驚きの助言だった。
「そ、そうなんですか!? そんな話、知りませんでした…!!
噛み付いてくるし、頭は真っ先に攻撃したくなりそうですけど…。」
「仲間の間じゃ、定説だ。昨日、やつらが一気に蔓延したのも
頭を攻撃したからではないかと言われている。
やつら、脳にダメージを受けると、より狂暴になる。」
「…ほ、本当ですか?」「あぁ、救助活動の時、実際見て来た。」
「この辺じゃ、あまり見かけないが、繁華街のデパートやビル街は
攻防が激しく、それこそ喰われまいと頭を攻撃していた。
頭をつぶされ、噛み付く術を失ったやつらはどうしたと思う?
死を蔓延させる事が絶対的な使命の如く、より狂暴に全身を使って
攻撃して来た…あるものは人間の顔に、自分のつぶされた
血まみれの顔を力ずくで押し付け窒息死させたり、
またあるものは両手で首を絞めあげ喉笛を掴み引き千切ったり…
背後から捕まえられた人間は、腹にくい込んできたやつらの指で
じょじょに腹を裂かれ、はらわたを地面にぶちまけてしまっていた…
あの強靭な力はこの為でもあるのかも知れない。
折れて突き出た自分の骨を突き刺して来る奴もいた。
…足先を失ったやつは人間の口に血まみれの踝をねじ込んで来る。」
惨いと一言では語れない聞かされた惨状は僕の想像を絶していた。
「一番驚いたのは単体で動く筈無いと思われた、
喰いちぎられ放られたであろう腕や足が、蛇や山蛭のように蠢き、
ハイエナのように群がって束で、倒れたり身動き出来なくなった人に
襲いかかっていったのを見た時だ…。
そいつらの千切り離されたであろう傷口は、
あたかもそこに口が存在しているかのように人間にくっ付く。
無理に引き剥がせばくっ付いていた部分からは大量の出血…
何が起きているのか見るからにまったく訳が分からないが
くっ付かれた人間は次第に動かなくなり絶命すると
それをくっ付けたままやつらの仲間入りだ…信じられるか?」
なんて事だ…想像を絶しすぎていて絶句する。
人の多い繁華街ならではの珍事だろうか…。
まだ、そんな状態のやつを見た事は無いが会いたくはない…。
「やつらは止まらない、何をしても止まらないんだ!!」
村瀬の言った言葉の意味が分かった様な気がした。…死が攻撃してくる。
朝見たTVの銃撃の映像…頭を撃たれたやつらが勢いを増して見えたのは、
増していたからだ。酷い…繁華街やデパートに生存者はいるのだろうか?
「繁華街で救出作業に関わってかろうじて何人かを避難所へ搬送したあと、
再び繁華街へ戻ろうとしたが、たった数十分の間に増えてしまった
やつら数に圧倒され、二度と繁華街へは近づけなかった…。」
繁華街からその狂暴なやつらが溢れ出て来ないのなら、
もしかすると生存者がいて攻防を繰り返しているからかも知れない。
「だから、頭は攻撃するな。脳はそのままにしておけ。
脳があれば攻撃はして来ても、行動にはかろうじて人間らしさが見え
まだ大人しい。…バラバラなんてのはもっての他だ」
「脳があれば死者…無くなれば即、危害だ。」
消防士達が口々に言う。
「解りました…。」
やはり、昨日思った通り…
噛み付く事が出来なくなった場合の攻撃力も備えていた。
必然だろう…。とは言え、人間らしさを残して見えると言う事は、
ただ滅亡へと追いやる為の死を蔓延させる事とは
やはりどこかずれていると感じた。誇示?見せしめ?何の為の?
はっきりしている事は一つ。人の死がそこに在る…。
人の、死の、主張。やはりそこにおののく。
昨日彼女と一緒に過ごして気が付いた事実に、
やつらの言葉を聞いた気がした。
きっと彼女の失った腕も…どこかで誰かを襲っている。
見つけ出して くっ付ける所の話では無くなっていた。
そうか、これが攻撃禁止命令の真意かもしれない。
TVの報道で扱われるとすればきっとこれからなのだろう。
誰が信じる?腕や足だけが襲いかかるなんて…。
それだけ事実を伝えられる人員も少なく、
情報が錯綜していると言う事に違いない。
再び消防車は火災現場に戻っていた。
「少年、家はどこだ?送って行く。」
「さっき見えた橋を渡って右200m先くらいです。」
「了解。」運転手は消防車をUターンさせる。
指示役だった消防士がメモを書き出し僕に渡した。
「自分の携帯番号だ。かかるか判らないが必要なら連絡を。」
それを聞いた放水係が口を挟む。「のろしを上げるのが一番早い。」
冗談のつもりだったのか、僕は笑っていいのか判らなかったが
少しだけ微笑んだ。消防車が橋を渡ると僕は家の場所を告げ、
家の玄関前まで送ってもらう。「ありがとうございました。」
渡されたメモはズボンのポケットにしまい消防車から降りる準備をする。
「気を付けるんだぞ。家族が無事帰ってくる事を祈る。」
「…あ、は…はい。」
父親が帰ってくるのが本当はまずいと思うとしどろもどろになる。
「守ってやれよ、彼女。」「はい。」
これは素直に答えた。辺りにやつらがいないのを確認し車のドアを開けて
消防車から降りようとすると、異様な臭いが車内に漂って来た。
何の臭いだ?形容し難い、鼻に突き刺さる様な痛い臭い…。
消防士達が言う。
「まさか、そんな事までありうるのか?…この臭い…考えすぎか?」
「いや…用心しろ。この状況下では可能性はある…危険だ…どこからだ?」
「少年、ドアを閉めろ、急げ」
「はい…」僕は言われた通りドアを閉めた。
消防士は告げる。
「これは、死の臭いだ…」
(続く)
→第17章へ。
☆投稿後記☆
予定では3日目に家を出る予定でしたが
別件で今回出てしまいました(笑) 何があるか判りませんねぇ。
え〜っと、今回は好みがはっきり分かれてしまうでしょうね。
だって、トンでもない造形のやつが現われますから(笑)
バラバラのやつをどうにかして攻撃力にしたかったのですが
結果こんな事に(笑)
それと、消防活動の件は縁が無いのでまるっきり想像です。
なにか変な描写がありましたらこっそりメールフォームで教えて下さい。
次回はもっと個人的に出したいゾンビが出て来ます。
あれですよ、あれ。最も衝撃的で私の一番好きな謎で驚愕的なアイツ!!
そんなワケで次回も個人的趣味からですが5月下旬予定です。
それでは、また♪
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